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<協力者候補一覧>


メリスメル:黒い髪に藍色の目。とても可愛い女の子。大きな神殿で聖女様と呼ばれていたけれど本人は否定。無理矢理祀り上げられていたと思われる。


レイニール:朱っぽい金色の髪に緑色の目。焼かれた村で大怪我をしていたところを発見。彼以外の生存者は無し。何者かの襲撃を受けたと思われる。プリンは気に入ってもらえた様子。プリンは偉大。


シグルド:茶色の髪に鳶色の目。家族からも徹底した虐めを受けていた様子。自己卑下が著しい。森の中で発見。村から放逐されたと思われる。


アージェント:柔らかい銀の髪に水色の目。本名はシメオンらしいが本人がいやがるからつけてみた。娼館で発見。色気だだ漏れ。足の腱を切られていたので歩行訓練が必要。


ウェンデルベルト:黒い髪に金色の目。大きなお城の地下でよくわからん装置(魔力を吸収するような感じだった)に全裸で捕まっているところを発見。ついかっとなったので装置壊してきた。今は少し反省している。



 ◆ ◆ ◆



 がりがりと書いていた手を止めて、リサは大きく息を吐き出した。

「……改めて見るとひどいなこれ」

 少しばかり自分を落ち着かせるために、今日連れてきた子どもたちの発見状況などを書き記していたのだが、どう見てもみんなトラウマ持ちになりそうである。というか。

「うおああああああ」

 ちょっと他人には聞かせられないうめき声を発しながらリサは机に突っ伏した。

 ──ごめんなさいすいません正直いろいろなめてました自分も結構痛い目見てきたと思ってたけど上には上がおりました甘かったですすいませんマジすいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 リサの思考は高速で同じところをぐるぐる回っていた。

 どうして彼らに白羽の矢がたったのか。冷静に考えると──いや冷静じゃない自信は山のようにあるわけだが──他に行くところがなかった子たちだ。その弱みにつけこんでしまった気がする。状況的に見て、選ばせる余裕もなかったし、何より自分が、あの子たちをあそこに置いておきたくないと思ってしまった。

「これは、ぜんぜんフェアじゃない」

 つぶやくと、それは確信に変わる。

 ──そう、フェアじゃない。洗脳したいわけじゃない。でもやったことははっきりいってひきょうものじゃないかな! 力いっぱい状況につけこんだよね結局自分の意志とおしたようなものだよね恩着せがましいよね! うおああああ!

 煩悶するリサだったが、控えめなノックの音に、はっと顔を上げて表情を取りつくろう。彼女のじいやに、リサはあまりみっともないところをみせたくなかった。嫌われるのがいやだから。

「……どうぞ」

 つとめて感情を抑えた声で応えると、入ってきたアーネストは、トレイにカップを載せていた。

「温めたミルクでございます。……嬢様、お疲れでしょうし、今日はもうお休みになってはいかがですかな?」

「うん……ありがとう」

 立ち上がる気にならずに頷くリサに、いつもは小さい卓の方に置くのに、リサのいる大きな机の方までアーネストはカップを持ってきてくれた。静かに置かれたそれに再び「ありがとう」というと、リサはそっと両手で持ちあげ、一口含む。

 ほんのり甘くて温かいじいやの気遣いは、嬉しい。

「……ごめんなさい、じいや」

「何がでございますか?」

 答える声も優しい。それに促され、リサは吐息をついた。

「……私、見込みが甘かったわ。またじいやの迷惑を増やしてしまった。……でも、放っておけなかった」

 三人目のシグルドを誘った段階で、もしかして、と思ったのだ。

 候補にあがったのは五人。──レインもシグルドも、彼女が迎えに行かなかったら、翌日にはどうなっていたか分からない。つまり、残る二人も、そういう状況なのではないかと思ってしまい、探しにいかざるをえなかったのだ。

 そして、見つけて、状況を知ってしまったから。

 目を閉じて、リサは今日目にしてきたことを思い出した。



 大きな白亜の神殿の中を矢印は示していたから、ちょっとだけ飛んで、見つけたのは白い服の少女。黒髪をおかっぱにしたとても可愛い子だったので、「美少女! なまびしょうじょ! お姫様だ!」とかとリサは内心とても喜んだのだけれど、彼女の藍色の目には、はじめ何の感情も浮かんでいなかった。

 名前を問うと、その瞳は揺れたが、そんな彼女が「聖女様!」と呼ばれたとき、眉をひそめたのに気づいてしまった。明らかに、そう呼ばれるのを嫌がっていた。それなのに、大人たちは口々に叫んだ。

 聖女。おそらく彼らの中ではとても尊い存在なのだろうその重みは、リサにもなんとなく想像がつくが、それをこの少女に押しつけている彼らが腹立たしかった。

 魔族と名乗ったのに、全く間髪入れずにメリスメルは叫んだのだ。──連れていって、と。

 悲痛な、叫びだった。この子はここで、いったいどんな目に遭ってきたのだろうと、思った。

 だから見せつけるようにさらっていくことにしたのだ。

「初っぱなから大物引き当てたなー」くらいにその時は思っていた。

 甘かった。


 地図があれば長距離跳躍はなんということもないけれど、細かいところは矢印頼りだ。なので空から探していると、煙があがっているのが見えた。そちらを示す矢印に従って飛んでいくと、そこにあったのは焼け焦げた家々。慌てて速度を上げると、焼けた家の間に、血塗れになった人が何人も倒れていた。全く、動く気配がなかった。

 少し高度を下げてみると、煙に混じって、錆びた鉄の匂いが鼻をついた。家の扉は大きく開け放たれていて、何かを引きずったような跡が見えて。

 頭で理解していたはずの単語が、目の前の光景と一致しなかった。体が、震えた。

 略奪。

 漢字二文字のそれが、こんなに酷いものだとは、思っていなかった。探し相手が、本当に生きているのか不安だった。丘の上で見つけたときは、本当にほっとした。

 同時に沸き上がったのは、罪悪感だった。

 もう少し早く来ていたら、他の人も助けられたかもしれないのに。それに、あんなものを目にした子が、心を壊しているんじゃないかと、心配だった。

 見つけたレインは、朱っぽい短めの金色の髪はぼさぼさで、右腕は折れていて、血と煤にまみれていて、服は破けてぼろぼろで、本当に大丈夫だろうかと思ったけれど、受け答えはしっかりしていて、それにはほっとした。けれど、それが良いことかは分からなかった。

 泣いた跡が、見えなかった。

 プリンをおいしそうに食べている姿はごく普通で、思いがけない発想には驚いたけれど利発な子で、勧誘にもあっさりと頷いてはくれた。けれど、「住むところ、無くなったし」と言った彼の瞳の(くら)さが、痛ましかった。

 彼が失ったのは、住むところだけじゃ、ないだろうに。


 そして──シグルドだ。

 転移した先は、見渡す限りのだだっ広い針葉樹林の森。明かりも無く人家のようなものもろくに見あたらず、こんなところに本当にいるのかと思いながら探した北の地の夜はひどく冷えるのに、彼はたった一人で深い森の中にいた。獣に囲まれて、間一髪くらいだった。

 そして彼の口から、彼がこんなところにいる理由を聞いたリサは、瞬間、怒りに我を忘れかけた。そのせいで、いつもは意識せずとも抑えられていた魔力が漏れて、かなり彼を怖がらせてしまったのは反省している。

 でも。

「口減らし」。貧しい村ならある話だとは頭で分かっていた。物語でなら、読んだことがあった。けれどもそれならどうして産んだんだとわめきたかった。苦渋の決断だったかもしれないと思おうとした。けれど、彼の口から出る言葉は、とても卑屈で、しかもそれを疑問にすら思っていなくて。おまけに、家族だけでなく、近所からもそんな扱いをされていて。自尊心をよってたかって奪い取って、最後の仕打ちが、村を追い出すことなのか。

 ちょっとぼうっとしたようなところがあるシグルド。けれど、彼が懸命に自分の問いに答えようとしてくれることは分かった。多分に同情だけど、彼をぎゅっと抱きしめるのに抵抗はなかった。彼の体は細くて冷たかった。──そうしなければ、いけないと思った。

 ばかで居続けたくないという彼の言葉を聞いて、きっと大丈夫だと思った。

 そして、頭の隅をよぎった考えに、怖くなった。

 ──他の二人は、大丈夫なんだろうか。


 できるだけ急いで跳躍した先は、これまでと違った都市部で、矢印が示していたのは、白い館。

 姿隠しの結界を張りつつ、しばらく外から様子を眺めて、内部の声に耳を傾け、そこが娼館というものであると理解した。リサ本人は現世でも前世でも経験はないが、リサの家のどエロい用心棒がエロすぎるために、情事の様子は目撃したことはある。──いやうっかりノックを忘れたのがあの時はよくなかったのかもしれないが、いやいやあれは真っ昼間だったしやっぱり悪いのはエロいゼスだ。うん。ミアンは悪くない。

 ということは、そういうのの候補として育てられている女の子とかだろうかと思いつつ、しかし矢印は一番高い所にある部屋を示しており、まさかロリコン向けとかだったらどうしようぶっ殺すっていうか最中だったら本気でどうしようマジとどめさすかとぐるぐる考えつつもそこのテラスに降り立ち、念のために部屋の周囲に防音結界を張ってから中に入ると、少しくらっとするような甘い香りの中、寝台の上に人が居た。

 琴のような楽器を抱えた、扇情的な格好のその子が一人きりだったのにほっとしつつ、どうみても極上の美少女なのに──しかもやたらと色気のある──ちっともときめかない自分に疑問を覚えた。

 ──おかしい、美少女なのに。

 そんなことを思いながらも、メリスメルで覚えた高揚を全く感じないので、まじまじとその体を眺め、性別を問うと、男だというし。

 どうやら自分は美少女検知機能搭載しているんだなあはははと内心でリサは思っていた。そんなアホなことでも考えていないと正直暴れ出しそうだったのである。

 しかしいけないと思います。この子の色気はやばいと思います。悩殺されるダメ大人続出でも驚きません。女の子だったら傾国の美女とかになりそうだーなどと思いつつ、彼の枷となるものを聞いていたら、どうやら地雷を踏んでしまったらしく、泣かせてしまったのは反省点だった。命の危険がすぐあるわけではないと、感覚が麻痺してしまっていたらしい。

 着飾っていようとなんだろうと、彼がされていることは間違いなく虐待で、彼がそれをどれだけ嫌がったか、痛々しい叫び声でもよく分かって。

 新しい名前を欲しがる彼は、きっと自分自身をすごく嫌っているのだろうと思ったから、頭に浮かんだ名前をつけた。

 触れられるのを嫌がるかもしれないから、慎重に。そう思っていたのだけれど、彼の足の腱は、傷つけられてから時間がたちすぎていて、既に体にそうと認識されている、治しにくい物だったから──切り傷とか擦り傷のような、今受けたものについては比較的治癒もしやすいのだけれど──ミアンに言われた「息を吹き込むように」というイメージをつい実践してしまったのだが、真っ赤になったその顔とだだ漏れの色気に、彼にはしっかり護身術を身につけてもらおうと決意したものである。


 そして五人目を探しに転移したのだが、大きなお城のあるその国は、魔力の流れがとても整然としていた。なんというか、他の所よりもずっと、「濃い」感じがした。不快というほどではないけれど、そのあまりに整ったものには違和感を覚えた。そして流れの中心は、その大きなお城で、矢印の反応もそちらにあった。

 もう嫌な予感しかしなかった。

 地下を示す矢印に従って、ソナーのような術で空洞を探し、そこに跳躍して──生まれて初めて嗅いだ、死臭。

 ひどい、においだった。

 そんな臭いの中、直視もしにくい死体が床に転がるそのそばで、脈打つ光の元である祭壇のようなものに、長い黒髪の少年は捕らわれていた。はりつけにされている彼の足下には白い布が落ちていたけれど、彼自身は何も身につけていなかった。ただ、黒い紐のようにも見える魔鎖だけが、彼に幾重にも絡みつき、その体を祭壇に縛り付けていた。

 鎖を構成している魔術文字というのは、その昔、魔導帝国というものが人界を支配していた時にしばしば用いられた、文字自身が力を持つというものだ。取扱いがきわめて難しいために、リサ自身あまりきちんと勉強できていなかったが、読みとれた中にあったのは、「吸収」「捕縛」「封印」「調整」「飼育」──もう、確信できた。彼はこの祭壇に捧げられたのだ──死体が腐り骨がむき出しになるまでの間、いやそれよりも長く、そう、あの白い布が彼を包んでいたころから、ずっと、ずっと、ずっと!

 人間の善性を無邪気に信じていたわけではなかった。水原理沙だったころ、インターネットの中で、さまざまな負の面も目にしてきた。人間、残酷なことも平気でできる人はいるのだと、頭では分かっていた。

 正しくいうと、頭でしか分かっていなかった。

 よくある話だと言えるほど、リサは悟れなかった。

 そして今日たまりにたまったイライラをぶつけても全く良心が咎めないものが目の前にあったので、遠慮なく八つ当たりをすることにしたのだ。あの整然とした魔力の流れがなくなったらさぞかしこの国は混乱するだろう。それはたやすく予想できる。けれど、最大多数の最大幸福? そんなことは知ったことではない。最小の犠牲? されてから言ってみろ! 

 メインはこの祭壇、魔鎖はおまけ、接触による捕捉開始と推定──こっちが捕らわれる前に本体ごと回路灼ききって壊す。その意志のままに拳を握り、術を展開──発動タイミングは接触と同時、破壊力増加、衝撃伝播速度増加、衝撃指向性範囲限定、反作用軽減、衝撃緩和結界作成、カウンター保険に抗魔結界作成──実行!

 実際にこれまで使ったことはなかったけれど、もしもの時の為に何度もイメージトレーニングをしていた近距離用攻撃は、狙い違わず祭壇を破壊した。──盛大な破砕音を響かせて。

 防音結界を張るのをうっかり忘れていたことに気づいたのはその直後で、やばいなーしまったなーとは思いつつ、魔鎖は消えたし息苦しいこの場から早く彼を連れ出したかったので、ろくに返事も聞かずに転移して勢いで同行を承諾させた。

 ──すごく、強引でした。反省はしています。でも。

「連れてきたことを後悔はしないし、しちゃいけないと思ってる。でも、それもこれも、じいやがいるから大丈夫だってどこかで思ってるからなの。……ごめんなさい、甘えてばかりで」

 リサがアーネストを見上げると、彼は優しく目を細めて微笑んだ。

「ようございますよ、嬢様。わたくしは嬢様に頼られるのが嬉しゅうございます。……あの方々は、嬢様のご友人として遇させていただくつもりですが、よろしいですかな?」

「……そうだね、友だちになるようなものだものね。でも必要なのは、母親役かな……なったことないけど、がんばる……うん、がんばる」

「……母親役、でございますか」

 実のところアーネストは、リサが連れてきた子どもたちが、洗って身ぎれいにしてみれば、いずれもタイプは違うものの、容姿が整ったものたちばかりだったので、まさか将来有望とはそっちの意味かと少々、もといやや、いやかなり心配だったのだが。

 ──いらぬ懸念でしたかな。

 そんな彼の内心を知らぬリサは、ミルクをこくんと飲み干すと、礼を言ってもう寝ると告げた。アーネストは一礼して部屋を退出する。

 扉が閉まった後、リサは机の引き出しから計画書を取り出し、接し方の部分に取り消し線を引いてから、下に一文書き込んだ。


・(修正)とことん甘やかす。


 よし、と頷いてから、リサは首を傾げた。

「甘やかすって……どうするものなんだろ?」

 しばし考えたが、明確な答えは見つからず。

 ──まあいい。明日相談してみよう。

 リサは計画書をしまうと、寝室に向かった。

 



 


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