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語られることのなくなった物語2

かつて歩みを奪われし


色売る館の少年は


詩人となりて歌を売り


人に連れられ国渡る


小さな国の王城で


を連れし者亡くなれど


その美しきかんばせ


心騒がす歌声に


かの国こぞりて引き留めて


詩人は応と頷いた




体は売れどその心


誰にも渡さぬその詩人


柔らかな笑み浮かべども


凍てつきたりしその心


溶かしたるのは三の姫


無邪気可憐で爛漫らんまん


優しく強きその瞳


自らの身をけがれしと


解しいとえる彼にとり


きよらすぎたるその少女


動かぬ足では護られず


穢れし身では触れられず


紡ぎし歌に微笑むを


見つめるだけの恋なれど


想いを告げるつもりなく


ただ微笑みを絶やすまい


願うは其のみの恋なれど





されどさだめの悪戯いたずら


野心あふるる王ありて


おのれの力示さんと


かの国じわりしはじむ


つるぎを持てぬその詩人


走るもあたわぬその詩人


戦うすべを求めども


彼が持ちしはその身のみ


男の身には妖艶に


過ぎると言わるるかんばせ


老若男女をたぶらかす


魔性と呼ばるるその舌と





ならば用いてみせようか


されば墜としてみせようか


すでに穢れし身であれば


汚辱にまみるも厭うまい





旅立つ前のその夜に


いとまを告げるその代わり


姫に歌って聞かせしは


彼女にたびたびせがまれた


幸せ願うわらべうた





詩人はかの国後にして


隣の王に拝謁し


一声唄い一つ笑み


王の心を捕らえけり


その身に王を溺れさせ


ねやの内にて囁くは


甘くとろける毒の言


ひとみ曇れるかの王の


疑心増します苦き蜜


閨の外にて唄いしは


虚実絡みて惑わす詩


いずれこの国裂くためと


散らし蒔きたる不和の種





柔弱なりと侮られ


奸濫かんらんたりと蔑まれ


人の気づかぬそのうちに


種は芽吹いて根を張りて


茎葉伸ばして花ひらく





罪無きものが罪問われ


心ある者追いやられ


人心乱し狂わして


詩人は国を揺らしたり


かの国に手を出せぬよう


かの姫の笑み守れるよう


民草の悲鳴聞きつつも


流れる血潮知りつつも


ただあでやかな笑み浮かべ


国を分かちて争わす


やがてその身は傾国の


吟遊詩人と呼ばれけり





心あるもの狼煙のろし上げ


ついに都は包囲さる


玉座の間にて王の首


転がり落つるその頃に


遥かを見やる塔の上


足を引きずりたどりつき


毒のさかずき飲み干して


終わりのおとない待つ間


届かぬことを悟りつつ


途切れとぎれにつむぎしは


今もう遠いかの姫の


幸せ願うわらべうた





かつて歩みを奪われし


色売る館の少年の


長じてのちにほの淡き


不触ふれずの恋に心染め


言の葉一つ胸に秘め


ついに傾国呼ばれたる


銀色の髪の吟遊詩人うたいて


その生きざまこそ哀しけれ



 

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