語られることのなくなった物語1
幼き頃に賊どもに
すべて奪われた少年は
剣の道を選びとり
その身に技を刻みゆく
長じてのちにその腕は
比うるものなしと謳われて
彼が率いし兵は
盗人どもを屠りたり
戦友への情は篤けれど
心によぎるは復讐か
賊への容赦は皆無にて
彼が命じしその言は
「一人も残さずみな殺せ」
首を断たれて心刺され
鮮血ひたひた海となる
討ちて帰りし彼の名は
歓喜と共に呼ばれたり
噂は千里を駆け巡り
賊どもなべて震え上がり
その蛮行を悔い詫びた
音に聞こえしその武名
ある王国へと伝わりて
彼が率いし兵は
傭兵たれと請われけり
眼前並ぶ敵兵に
ぐるり目を向け言いたるは
「引かぬのならばみな殺す」
かくて大地は血に染まる
彼の往くてに敵は無く
彼の後には流れる緋
いつのころからか鮮血の
傭兵王とぞ呼ばれける
いずこで歯車狂うたか
魂消る声を好んだか?
流れる赤に酔うたのか?
兵であろうとなかろうと
老若男女のことごとく
敵とみなせば屠りたり
そしてついには友軍も
無能であらば屠りたり
止めらる戦友はすでに亡く
いつのころからか彼の名は
恐怖と共に呼ばれたり
現れたるは一人の子
かつて滅ぼした小村で
脅え隠れて生き延びた
かつての彼と似た男の子
胸に刃を復讐を
固くいだいたその男
憎悪を隠し近づきて
彼の片手となりおおす
終の間となる王宮で
凱旋祝うその席で
彼を恐れた国王と
居並ぶ諸侯の目の前で
男に預けしその槍に
背より心臓つらぬかる
その眼見開きくずおれて
「父の仇」と叫ばれて
脳裏にうつりしもの何か
怖れ疎まれし傭兵王
自らの血に浸りつつ
ひとつ笑みはき息絶えた
集いし者は声もなく
その死姿を見つめたり
かつてすべてを奪われし
朱金の髪の少年の
長じてのちに血に染まり
恐怖と憎悪と死を撒いた
鮮血の名持つかの王の
心の内や誰れぞ知る