プロローグ
読み直してみて自分の文章の下手さに打ちひしがれて、改めて書き直しました。
よろしければご覧になってください。
ここは〝フロンレイシュ〟と呼ばれる世界
この世界では、『魔法』と言う名の力を使う者たちがおり、過去には巨大な文明も存在していたらしい。 だが今では魔法は衰退の一途を辿っており、魔法に必要な魔力がいらない技術が現れ始めてからは人々から魔法の存在が薄れ始めていた。魔法を使える者も少なくなり、仮に魔法の資質を持っていても気づかない者も多くなっていた。
この世界の大陸の一つの国に、『クレスト』と言う王国がある。
これは、この国で起きた事件の話である。
平地に広がる森の奥、満月の月明かりが差し込む中、焚き火の回りには男たち三人が座って話をしていた。辺りは静まりかえり、虫どころか風の音さえ聞こえない。
聞こえるのは火花が弾ける音と男達の声だけだった。
三人の中で一番背の低い小男が顎髭のある中背の男に尋ねていた。
「なぁお頭、これでホントに金が手に入るんか?」
「当たり前だ。まだガキだが曲りなりのも王女だ、売ればたんまり金が手に入るぜ。特殊な趣味の貴族も多いしな」
その言葉に一番背の高い、筋肉の塊のような大男が下品に笑っていた。
「ふへへ、金が手に入いりゃ贅沢三昧だなぁ」
「そのとおりだ、“ヤツ”の協力があったから城から王女を拐えたんだ、感謝しないとな」
「でもまぁお頭、その協力を俺達は裏切ったんですけどねぇ」
「口封じに俺達を始末するかもしれない奴らに引き渡すよりも、こっちで売った方が確実に金が手に入るしな。“ヤツ”には囮と犠牲になってもらえたよ」
これから大金が手に入ると思うと笑いが込み上げてくるのだろう、三人が笑っていると…
「フガァーッ! ふぁがふぇ―!」
――と、近くから怒鳴り声が響いた。その発生源はある少女だった。
その少女は猿轡をされて、足が浮く程度の高さで木に縛られている。
そんな状況にも関わらず怒鳴り声を上げている主こそ、誘拐された『王女』エリス・クレスト・エルクライト・・・10才の時である・・・
「うるせーお姫様だ」
「黙らせろ。けど傷はつけるな、金を手に入れるまでの辛抱だ」
命令された小男は面倒くさそうにエリスに近寄ってきた。
「ほへーらふっほばふぃふぁふぅー!(おめーらぶっとばしてやるー!)」
口が塞がっているのに噛みつかんとばかりに喚くエリスに対し、さすがに小男も「なー、コイツ本当に王女なんか?」 と疑うほどだった。
「ふぐぅふぁーい!(うるさーい!)」
エリスを地面から離して木に縛っていた事が裏目だったのだろう。彼女の怒りに任せて振り上げられた足が、偶然にも小男の背の低さと相まって見事に股間を蹴り上げた。
「ッ!!?ホォ――――――――――――――ッ!!」
小男は白眼で涙を流しながら股間を押さえ、声にならない悲痛な悲鳴を上げてのたうち回っている。それを見てボスと大男は痛そうな表情と共に股間部分を守る様に押さえた。
「このガキ、調子に乗るなよ、手を出さないと思ったら大間違いだ!」
今度はお頭と大男がエリスに近づいて来た。お頭より一歩前に出て大男が拳を鳴らしている。
「オメーなぁ、大人しくすりゃ傷つけないでおこうと思ったが、少し外の世界の厳しさを教えとかないとなぁ」
ボスが顎で大男に指図する。大男は頷いてエリスに向けて拳を振り下ろすと、拳の恐怖にエリスは目を瞑った──
──のだが・・・、なかなか拳が来ない事を不思議に思い、そっと片目を開けてみると・・・・・・
「あががががァ!?」
その光景にエリスは目を見開いて驚いた。今まさに自分を殴ろうとしていた大男が、横から自分より背の低い少年に腕を捕まれて苦痛を漏らしてもがいていたのだ。少年は腕を掴みながら大男の懐へと入った。次の瞬間、大男は羽の様な軽さで足下から浮き上がり、近くの木へと背負い投げられた。
その光景をエリスは驚いて見つめていた。
そこには紅の髪に、首から紅の宝石が付いた銀細工のペンダントを下げ、背中には刃を布で巻いた己の身長よりも大きな大剣を背負った少年が立っていた。14、5歳程だろうか、まだ幼さは残るも凛々しい顔つきで、月明かりに照らされたその姿にエリスは見入っていた。
目の前で起こった光景に驚いて固まっていたお頭だったが、すぐに正気に戻ると剣を抜いた。
「てめぇ、なにもんだ!」
は焦った様子で少年に怒鳴るが、焦るボスを見て少年は冷ややかな眼でバカにするように笑った。
「このガキ! お前らなに倒れてやがる、起きやがれ!」
お頭の怒鳴り声で、うずくまっていた小男と木に寄りかかっていた大男がふらつきながらも起きだしてきた。お頭と小男は剣を構えて、大男は拳を振り上げて少年に向かって向っていく。
「うがぁぁぁ―・・・ぁあ?!」
だが少年は、拳が当たる瞬間にしゃがみ込み、相手が向ってくる勢いを利用して鳩尾に肘打ちを入れた。大男が怯んだ隙に、少年はボス達の方へ思い切り蹴り飛ばした。
「バカなッ、あの巨体を!? くっ、次はお前が行け!」
「えぇ!?俺は嫌だよ!!」
小男は痛みがまだ続くのか、股間を押さえながら訴えると。
「つべこべ言うな! 行けぇ!」
「ひっ、ひぃーっ!!」
ボスは小男に剣をむけ命令をすると、小男が必死な様子で向かってきた。
だが少年は、剣が振り下ろされるよりも速く突き出した拳を相手の顔面に当てると、鼻血を吹かして気絶させていた。
あまりに呆気ない光景にエリスは驚愕と安堵を感じていると・・・
バンッバンッ!
突然小さな爆発音が響いた。エリスは驚いて我にかえり辺りを見回すと、少年が左脇腹から血を滲ませ表情を歪ませていた。
ボスが両手で黒く小さな鉄の塊を持って震えており、仄かだが火薬の臭いにエリスは気付いた。
「ハ、ハハ・・・、なかなかスゲェな、アイツから渡されたこの“トカレフ”ってのは」
ボスが持っていたもの・・・、状況から考えてエリスは銃だと判断できた。しかし見たことのない小さい銃だった。
大陸で広く使われているのはマスケット銃だが、”アレ”は何か違っているとエリスは感じた。
再度三発の銃声が響き、前項がスライドし薬莢が排出される。ボスが震えながら銃を撃ったためか、一発はまぐれで少年の右肩に当たったが、残り二発は外れていた。
だが少年は苦悶の表情を浮かべて傷口を押さえており、ボスはニヤリと笑ってゆっくりと銃を構え直していた。
エリスはただその光景を見ているしかなかった。彼女は足掻くように縄で縛られた体を動かし、頭を振って口を塞ぐ猿轡や体を縛る縄を緩ませようとしていた。
「んぐぐ・・・っ!ぷはぁっ!」
顔を動かした事でエリスの猿轡が外れた。
「撃っちゃダメ!やめてぇぇぇっ!!」
エリスの叫びが響き渡る。そして同時に少年のペンダントの宝石が光を放ち始めた。
「・・・ん?なんだ、なんなんだ!?」
風が吹く。ボスが引き金を引くのをやめるほどに、静かだった森の中に風が吹き荒れていた。
「これは・・・、空気が圧縮されている」
少年が何かを感じて辺りを見回している。そしてその目線がある方向を向いたとき、空気が爆発し森が揺れた。
少年の横を見えない何かが通りすぎると同時に、立っていたボスが吹き飛んだのだ。そのまま気を失ったボスを少年は見向きもしなかった
「だめ・・・、だれ・・・も死んでほしく・・・ない…・・・」
なぜなら、少年は疲れきった様子のエリスを見詰めていたからだ。
「圧縮した空気を大砲の様に撃ち出したのか・・・。確かに、かなりの衝撃波だったな」
男たちが全員気絶したことを確かめると、少年はエリスに近寄って行き縄をほどいた。
力が抜けたままで倒れそうになったが、そのまま少年に抱きかかえられて自分の心臓の鼓動が大きくなったのをエリスは感じていた。
「あ・・・、ありが・・・と・・・う・・・」
息も絶え絶えの中のお礼の途中で、エリスはいつの間にか意識を失っていた。
「気を失ったようだ。・・・ああ、確かにこいつの力は・・・・・・。わかった、貴方の指示に従う・・・」
どのくらい眠ったのか…、次にエリスが目覚めると、そこは見覚えのある部屋だった。天蓋付きのベッドで、左手には温かい温もりを感じていた。
「あ・・・、お母・・・様・・・?」
視界に入ったのは自分の手を握っていた王妃である母だった。意識を失っていた娘が起きたことで、母からは嬉し涙が流れた。
「目が覚めたのね! よかった」
エリスは最初、母を泣かせた事に申し訳なさを感じた。そしてよろめきながらも上半身を起こすと、母親に抱きついていた。
「うう・・・、お母様・・・」
抱きついたまま涙を流すエリスを、母は何も言わず抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でていた。暫くして落ち着いたエリスが事情を尋ねると、母は兵士に聞いたことを語った。
紅の髪の少年がエリスと誘拐犯の三人を連れてきたこと…。そして少年はすぐに姿をくらませたこと。
エリスは母に名前などを聞かなかったかと訪ねたが、返事は何も知らないと返されただけでエリスは肩を落とした…。
「・・・・・ん?」
落ち着いたエリスが首元に違和感を感じて確かめてみると、あの少年が着けていたペンダントが掛けてあった。理由はわからないが、エリスはただそれを、ぎゅっと握りしめた。
数日後、エリスの父である国王の元に意外な報告が入った。
〝エリスを誘拐した三人が殺された…〟
それは王たちにとって衝撃だった。
話では、三人を護送中の馬車は鉄牢でできていたのだが、鉄格子をこじ開けられた跡があり、護衛の兵士を含めて全員鉤爪状の刃物で切り裂かれて殺されていたらしい。
しかしなぜ犯人はこんな大胆な事をするのか、とても人間技ではないなどの謎が浮かんだ。
そして誘拐時の犯人は三人ではなく、実は四人と言う噂もあるが、定かではない。
あれから数日後・・・
エリスには別に外傷や、心に傷を負うことも無かった。
だが事件暫くはいつも憂鬱な様子で外ばかりを眺めていた。
その後何を思ったのか、突然自身で剣を学び始めた。
エリスには護衛が付くようになったので自分自身が剣を握る事はないと説得されるも、「そんな事言うお父様は嫌い」
の一言で国王は泣く泣く了承した。
なぜ剣を学ぶのかは当初は疑問に思われており、エリスは誘拐された自分に不甲斐なさを感じているから強くなりたいと言っているが、それも定かではない。
そして、この7年後に全ては動き出す…
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