ダンジョン・アタック!
◆リオン視点◆
第一階層――
マヨイさんとレーナさん。
二人とも、本当に優しい人たちだ。
こんな人たちに出会えたボクは、きっと、すごく運がいい。
――だからこそ。
ちゃんと、役に立たなきゃ。
「あ、レーナさん。
その先、床の継ぎ目――トラップです!」
「え……!?……ふぅ、助かったわ。
ありがとう、リオンちゃん」
「いえ。これがボクの役目ですから」
前に出て戦う力はない。
でも、索敵、罠察知、
魔石回収、付与魔法――
それなら、誰にも負けない。
元いたパーティ《スターライト》で、ずっとやってきたことだ。
そのとき。
ぴちょん。ぴちょん。
通路の奥から、半透明の影がにじみ出る。
「スライムです!」
即座に状況を判断する。
「マヨイさん!
中心部のコアを、真っ直ぐ刺してください!」
「了解!」
ボクは詠唱し、身体強化魔法を展開する。
淡い光がマヨイさんの身体を包み――
次の瞬間。
ズン、と床を蹴り、マヨイさんの剣が迷いなく突き出された。
ぷちっ。
スライムは、あっけなく霧散する。
……え。
は、速……
マヨイさん。
思ってたより、ずっと筋がいい。
第二階層――
ガタ……ガタガタ。
骨の擦れる、不快な音。
スケルトンが、闇の奥から姿を現した。
「硬いです!先にレーナさんの火魔法で、骨を脆くしてください!」
「ええ……わかったわ!」
レーナさんが一歩前に出る。
「ファイヤー・ボール!」
火球が直撃。
スケルトンの骨が赤熱し、ひび割れる。
「今だ!」
「よし、行くぞ!」
マヨイさんが踏み込み、剣を振り抜く。
ガシャリ――
骨は、音を立てて崩れ落ち、そのまま魔力の粒子となって消えた。
……すごい。
二人とも、ちゃんと"戦えてる"。
第三階層――
グギギッ!!
耳障りな声と共に、小柄な影が飛び出してきた。
ゴブリン。
油断したら、一気にやられる相手だ。
「注意してください!ゴブリンは狡猾です!」
次の瞬間。
ゴブリンが、一直線に
――ボクを狙って跳びかかってきた。
「っ……!」
身体を捻り、紙一重で回避する。
逃げるのだけは、得意だ。
「レーナさん!火魔法で、足元を狙ってください!動きが止まります!」
「よ、抑制ってこと!?……わかった、やってみる!」
火花が弾け、ゴブリンの足元が焼かれる。
動きが、鈍った。
「マヨイさん!今です、トドメを!」
「任せとけ!!」
踏み込み――
一直線。
剣は迷いなく、ゴブリンの胸を貫いた。
「……ふぅ。無事、勝てましたね」
戦闘が終わり、ふと二人を見る。
マヨイさんとレーナさんが、顔を寄せて、何かを小声で話していた。
……あ。
また、かな。
前に出ず、指示ばかりして。
また、見捨てられるんだ。
そう思った瞬間――
「リオン」
マヨイさんが、こちらを見た。
「優秀すぎだろ!!」
「え――」
バシバシ、と肩を叩かれる。
「そうね」
レーナさんも、笑顔で頷く。
「リオンちゃんのおかげで、すっごく楽しいわ」
「え……?ボク、何も……」
「何も?」
マヨイさんは即座に否定した。
「道案内、魔石回収、判断の速さ。それに――」
視線が、レーナさんへ向く。
「バフ付与よ」
彼女は断言する。
「これ、凄いなんてレベルじゃないわ」
「私の火魔法、いつもより明らかに威力上がってるもの」
「僕もだ。身体が軽くて、戦いやすかった」
――そんなこと。
そんなこと、初めて言われた。
気づいたら、視界が滲んでいた。
涙が、止まらない。
「え!?ど、どうした!?」
「ちょ、リオンちゃん!?」
「あ……すみません」
慌てて拭う。
「嬉しくて……つい」
「それは良かった」
マヨイさんが笑う。
「てかさ――」
「これ、追放した奴の方が無能じゃね?」
「確かに」
レーナさんは、ちょっと意地悪な笑みを浮かべた。「今頃、困ってるんじゃない?」
「……そうですかね」
ボクは首を振る。
「あの人たち、Aランクですし。ボクがいなくても、普通に冒険してると思いますよ」
――その言葉は、まだ少しだけ、強がりだった。
◆
次の瞬間――
ドン。
ドン。
低く、重い衝撃が足元から伝わってきた。
ダンジョン全体が、まるで巨大な心臓の鼓動のように、静かに揺れる。
「な、何が起きてるんだ……!?」
マヨイさんが、思わず声を上げる。
「リオンちゃん、分かる!?今の、何……?」
二人の視線が、同時にボクへ向けられた。
……正直に言うと。
ボクにも、分からない。
ただ一つ確かなのは、嫌な予感しかしないということだけだ。
答えに詰まった、そのとき――
「――逃げろおおお!!」
通路の奥から、必死な叫び声が響いた。
二人の新人冒険者が、何かに追われるようにこちらへ駆け込んでくる。
「オ、オークだ!!」
「三階層にいるなんて、聞いてないよ!!」
悲鳴を残し、彼らは入口方向へと駆け抜けていった。
――オーク。
その言葉を聞いた瞬間、全身の血の気が引いた。
「オーク……!?第三階層にいるなんて、ありえない!」
即座に、状況を整理する。
「二人は新人で、ボクは戦力外……!」
「逃げるしかありません!!」
必死に、二人へ訴えた。
でも――
そのとき、気づいてしまった。
……おかしい。
マヨイさんの様子が、明らかにおかしい。
怯えるでもなく、焦るでもなく――
まるで、"待っていました"と言わんばかりの表情。
「マヨイ君!?」
レーナさんも気づいたようだ。
「大丈夫!? 早く逃げ――」
「ごめん」
遮るように、マヨイさんが言った。
「僕、アイツと戦いたくて……戦いたくて、仕方がないんだ」
「え……!?」
意味が、理解できなかった。
「危ないよ!!相手はオークなんだよ!?」
ボクは慌てて、マヨイさんの腕を掴んだ。
止めなきゃ――そう思ったのに。
……びくともしない。
力で、完全に負けていた。
マヨイさんは、ボクの手を振りほどき、一人、ゆっくりと前へ歩き出す。
「レーナさん!止めてください!!」
「……大丈夫よ」
レーナさんは、小さく息を吐いた。
「たぶん……彼なら、何とかするわ」
呆れと、諦めが混じった声。
そして――
マヨイさんは、右手を伸ばした。
次の瞬間、白い瓶が、そこに現れる。
迷いなく、それを一気に飲み干した。
『――マヨネーズ・エナジー オン!!』
どこからともなく、機械的な音声がダンジョンに反響する。
次の瞬間――
空気が、変わった。
マヨイさんの雰囲気が、一変する。
圧倒的な存在感。
そして――
白い仮面が、その顔を覆った。
……ああ。
なるほど。
そういうことか。
「白い仮面……白い液体を使う……」
胸の奥が、ひやりと冷える。
せっかく、仲良くなれたと思ったのに。
「――悪魔、マギアス」
ボクは、そう呟いていた。




