パーティ追放モノ
今話から、パーティ追放モノの物語へと入っていきます。
◆リオン視点◆
ギルド併設の酒場――
「リオン。お前には、パーティーを抜けてもらう」
パーティーリーダーのアレクが、何の前触れもなくそう告げた。
あまりに唐突で、ボクはその言葉の意味をすぐには理解できなかった。
……抜ける?
今、なんて言った?
「どうして?」
喉がひくりと鳴るのを感じながら、ボクは問い返した。
「理由を、教えてよ」
納得できる説明があるはずだ。
そう思いたかった。
「じゃあさ」
アレクは肩をすくめ、ボクを見下ろすように笑う。
「逆に聞くけど――お前が、このAランクパーティー 《スターライト》にいる理由って、何?」
その笑みは、嘲るようで、どこか楽しそうですらあった。
ボクの職業は付与魔法師。
仲間の能力を上昇させる、支援に特化した魔法職だ。
この三年間、幼なじみ同士で結成したこのパーティーで、前に出ることはなく、常に後方から仲間を支えてきた。
それが自分の役割だと、疑ったことはなかった。
「……ボクは、支援職として」
言葉を選びながら、必死に口を開く。
「ちゃんと、みんなをサポートしてきたつもりだけど……」
「は?」
アレクが、鼻で笑った。
「ぷっ。悪いけどさ」
彼はわざとらしく首を傾げる。
「お前に"支援された"記憶なんて、俺にはないんだが?」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「いつも後ろで、ボーッと突っ立ってただけだろ?」
アレクは続ける。
「まあ、荷物持ちとしては役に立ってたかもな?」
その言葉を合図にしたかのように、周囲の仲間たちの視線が一斉にボクへ向けられた。
冷たい視線。
責めるような視線。
……いや、ただ鬱陶しそうな視線。
みんなも、同じ気持ちだったのだろう。
その沈黙を破るように、リナが口元を歪めて笑った。
「まあ、その荷物持ちも、もう必要ないけどね?」
彼女は得意げに言う。
「だってさ、私たち――マジック・バッグを手に入れたもの!」
「ん……ほんとに、便利」
ミュウも、短くそう呟いて頷いた。
その瞬間、はっきりと分かった。
――ああ、ボクはもう、ここに居場所がないんだ。
反論したかった。
言い返したかった。
でも、言葉が出てこなかった。
アレクは剣の才を持ち、
リナは魔法の才に恵まれ、
ミュウは回復魔法の才を持つ。
みんな、はっきりとした"強み"がある。
……じゃあ、ボクは?
付与魔法しか使えないボクは、
本当に――役立たずだったのだろうか。
「よし!」
沈黙を切り裂くように、アレクが声を上げた。
「じゃあ、この後、二次会行こうぜー!」
「賛成ー!!」
「ん……」
リナとミュウは楽しそうに笑い、アレクの腕に絡みつく。
三人は、ボクの存在など最初からなかったかのように、そのまま店の外へと消えていった。
取り残されたボクは、しばらくその場から動けなかった。
「……これから、ボクは」
ぽつりと、独り言のように呟く。
「どうしたら、いいんだろ」
こうして――
ボク、リオン・アリオスは、
Aランクパーティー 《スターライト》から追放された。
◆
「はぁ……ボクをパーティに入れてくれる人なんて、いるのかな。」
酒場を出たボクは、重い足取りでギルドの掲示板へ向かう。
肩を落とすと、ギルド内の喧騒がまるで遠くに聞こえる。
ソロでの活動も考えたけれど――
付与魔法師のボクには、前に立って戦える力はない。
……すぐに、その考えは頭から消えた。
掲示板の前で、勇ましい冒険者たちに声をかけてみる。
「えっと……付与魔法師なんですけど、パーティに入れてもらえませんか?」
返ってきたのは、冷たい視線と言葉。
「付与魔法師か。いなくても……別に困らないし、いらないかな〜」
「付与魔法師?無能職だろ、いらねーよ。」
……ああ、やっぱり。
自分の価値なんて、最初からこんなものだ。
せいぜい小さな強化魔法が使えるだけで、戦場では何の役にも立たない。
ベンチに腰を下ろし、沈み込むボクの胸の奥に、ぽつりと声が漏れた。
「もう……冒険者なんて、やめようか――」
その時だった。
「ねぇ、君。どうしたんだい?」
顔を上げると、そこには――
手に白い液体の入った瓶を持つ、どこか奇妙で楽しげな男性が立っていた。
その目は、暗く沈むボクの心を、ほんの少しだけ揺さぶった。
「ずいぶん暗い顔してるけど、何か困ったことでもあるのかい?」
この出会いが、ボクの運命を大きく、
少し奇妙に変えていく――
その時のボクは、まだ何も知らなかった。




