店ごと転移!?
◆マヨイ視点◆
「九つの物語を巡る……そう、言われたのね。
一体、どういうことなのかしら。」
「僕にも……正直、よく分からないんだ。」
魔族を撃退した僕たちは、拠点であるパン屋へと急いで戻ってきていた。
今、僕は――謎の騎士の亡霊から聞かされた話を、レーナにそのまま伝えている。
「でも……その旅が、僕の過去と何か関係している気がして。」
そう口にして、ふと隣を見る。
レーナは何も言わず、じっと僕の顔を見つめていた。
「ねぇ。その旅、私もついていっていい?」
「え?」
「マヨイ君、一人だと心配だし。」
「心配って……僕だって、一応は立派な大人なんだけど!」
「うーん……上手く説明できないんだけどね。」
レーナは少し困ったように視線を落とし、言葉を続ける。
「マヨイ君を一人で行かせたら、何か……取り返しのつかないことになりそうな気がするの。」
その感覚は、僕自身も否定できなかった。
戦闘中の僕は、今の僕とは明らかに違う。
あれがこの先も制御できるかどうか――
正直、自信はない。
「それに……マヨイ君、マヨバカだし。」
クスクスと笑いながら、からかうように言うレーナ。
「誰が……マヨバカだああああ!!
喰らえー!! マヨビーム!!」
「ちょっ……マヨイ君!?」
――閑話休題。
「それにしても……私が主人公だなんて、思いもしなかったわ。」
レーナはぽつりと呟く。
「火魔法しか使えない、落ちこぼれなのよ? 私。」
レーナはそう言って笑ったが、その笑みは、どこか頼りなげだった。
「だからじゃない?」
僕は肩をすくめて答える。
「完璧な主人公の物語なんて……きっと、面白くないだろうし。」
「うーん……そうかしら?」
レーナは顎に指を当て、少し考える。
「でも、そういう物語も爽快感があって、悪くないと思うけど。」
◆
その瞬間――
店内が、グラグラと音を立てて揺れた。
棚に並んだパンが宙を舞い、粉袋が空中で回転する。
「な、なにこれ……!?」
レーナが慌てて叫ぶ。
「大丈夫。落ち着いて。」
僕は反射的に彼女の手を掴んだ。
数秒後、揺れは嘘のように収まった。
「今の……何だったの?」
「分からない。でも……外に出てみようか。」
「……そうね。」
扉を開けた瞬間、僕たちの目の前には――
見知らぬ街並みが広がっていた。
色とりどりの建物が立ち並び、人々のざわめきと馬車の車輪の音が耳に飛び込んでくる。
冒険者らしき武器や防具のきらめきが、
通りのあちこちで目に入った。
「え……? ここ、どこ?」
レーナの声は、驚きと、どこか興奮を帯びて震えていた。
「二人とも、どうしたんだい?……え、ここどこだ!?」
気づけば、店の奥からレーナの養父も顔を出し、呆然と周囲を見回している。
「あ、お義父さん。私たちも、ここがどこなのか分からないの。」
「そうなんです。気づいたら……店ごと、ここに。」
「そうなのか……まあ、何とかなるか!」
養父は豪快に笑った。
「店は無事だしな!」
そう言い残し、彼は何事もなかったかのように店内へ戻っていった。
「もう……お義父さんは、本当に楽観的なんだから。」
呆れた口調とは裏腹に、レーナの表情はどこか優しい。
家族、か……。
僕には、どんな家族がいたんだろう。
「それより、マヨイ君。」
レーナが僕を見る。
「何その格好? 冒険者みたいだけど。」
言われて初めて、自分の姿に目を向けた。
そこにあったのは、いつもの服ではない。
軽装備に、腰にはショートソード――
まるで新人冒険者だ。
「なるほど……」
僕は小さく呟く。
「これが、ここでの僕の役割ってわけか。」
「役割?」
「うん。とりあえず、冒険者ギルドに行こう。」
視線の先に、街の中心らしき建物が見える。
「たぶん……何かが、そこで始まる。」
そう思った僕は、近くを歩いていた、いかにも冒険者といった風貌の男に声をかけた。
「あの、すみません。
ここって、どこの街ですか?」
「ん? ここか?」
男は怪訝そうに眉を上げ、すぐに笑った。
「冒険者の街・スターティアだ。
新人か? ギルドなら、あっちだぞ。」
男は右手の通りを指差す。
「ありがとうございます。助かりました!」
「いいってことよ。困った時はお互い様だ!」
豪快な笑い声を残し、男は街の奥へと消えていった。
「見た目は怖かったけど……優しい人で良かったわね。」
「ああ。」
「マヨイ君、ありがとう。」
そう言って微笑むレーナの顔は、思わず見惚れるほどだった。
「よし。ギルドに行こう!」
「うん!」
こうして僕たちは、別の物語の舞台へと
――導かれるように、並んで歩き出した。
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