火にマヨネーズ
◆マヨイ視点◆
「……?」
力は、まだ有り余っている。
なのに、どうしてだ。
「……なるほどな」
胸の奥で、嫌な感覚が広がる。
「オレは――
この物語の"主人公"じゃねぇってことか」
オレは、拳を下ろした。
ふと、レーナの方へ視線を向ける。
彼女は俯き、暗い表情をしていた。
さっきまで魔族に立ち向かっていた姿とは、まるで別人だ。
――どうした?
そう思った、次の瞬間。
「なんだ……マヨイ君も、持ってる側の人だったんだね」
ぽつりと、レーナが呟いた。
「持ってる……何をだ?」
「才能だよ……」
レーナは唇を噛みしめる。
「私は、火魔法しか使えない。それに……私の魔法じゃ、目の前の人、ひとりすら守れないの!!」
……なるほどな。
典型的な"自信喪失中の主人公"ってやつだ。
「守れない? いいや、違う」
オレは即座に否定した。
「少なくとも、オレは守られたぜ」
レーナが顔を上げる。
「震えながらでも、逃げずに立ち向かってた。
……正直、かっこよかった」
「ちょっ……!」
レーナは一気に顔を赤くする。
「か、かっこよかったって……何言ってるのよ……!」
「それにな」
「火魔法"しか"って言うけどよ。
オレだって、マヨネーズ"しか"ねぇ」
「……え?」
「でも、今ここで無事に立ってる。
だったらよ――」
オレはニヤリと笑う。
「レーナも、"一つ"極めてみりゃいいんじゃねぇか?」
「……極める、か」
レーナは少し考え込み、やがて小さく息を吐いた。
「そうね……もう少し、頑張ってみようかしら」
「よし。じゃあ、いいこと思いついた」
オレは、魔族の方を指差す。
「レーナの炎で、マヨ塗れのアイツ――
一気に燃やし尽くそうぜ?」
「もう!!」
レーナは呆れたように声を上げたが、その表情は、どこか柔らいでいた。
――その時。
「……はぁ。仲良しごっこは終わったか?」
低く、耳障りな声が響く。
「この人間共!!」
振り向くと、魔族は自ら回復魔法をかけたのか、先程よりも明らかに動きが戻っていた。
◆
「人間があああ!!まとめて、消え失せろ!!」
魔族が両手を掲げる。
闇が渦を巻き、黒い魔力が一点に収束した。
「くらえ――闇の魔弾!!」
放たれた闇の塊が、一直線にこちらへ迫る。
「マヨイ君――!!」
レーナの叫びが聞こえた、その瞬間。
オレは、一歩踏み出した。
「……遅ぇ」
拳を握り、真正面から迎え撃つ。
ドンッ!!!
拳と魔弾がぶつかり合い、爆音が広場に響く。
次の瞬間――
闇の魔弾は、"弾き返された"。
「なっ――!?」
魔弾はそのまま魔族に直撃し、
巨体を空高く吹き飛ばす。
「ぐあああああ!!」
宙を舞う魔族を、オレは見逃さない。
「――マヨ・スプラッシュ!!」
叫ぶと同時に、
オレは大量のマヨネーズを上空へ撒き散らした。
白い雫が、太陽の光を反射しながら降り注ぐ。
空中で、魔族の全身が――
完全にマヨネーズまみれになる。
「今だ!!レーナ!!」
一瞬の静寂。
そして――
「……わかった」
レーナが、魔法の杖を強く握る。
彼女の足元から、熱が立ち上る。
赤い髪が、炎の光を受けて揺れた。
「ファイヤー・ボール!!」
灼熱の炎が放たれ、マヨネーズに引火する。
――火に油。
いや。
"火に、マヨネーズ"。
ドォォォン!!!!
轟音と共に、空が真っ白な炎に包まれた。
「ぎゃあああああああ!!」
魔族の断末魔が、空に溶けて消える。
炎が消えた後、
そこに立っていたのは――
息を切らしながらも、
しっかりと前を向くレーナの姿だった。
その様子を見て、オレは静かに戦闘モードをオフにした。
◆騎士の亡霊 視点◆
『なるほど……やはり、彼はトドメを刺せないか』
私は、二人の戦いを少し離れた場所から眺め、静かに思考を巡らせていた。
『帝国のあの人たち……実に面白いシステムを作ったものだ』
感心とも、嘲笑ともつかない声が漏れる。
『この仕組みが、吉と出るか凶と出るか――
それは、これからのお楽しみだな』
そう呟いた次の瞬間。
騎士の姿は、霧が晴れるように、音もなく消え去った。
まだ、レーナの物語は終わらない。
そして、その物語はマヨイの介入によって、
大きく歪んでいくことになる。
――誰にも、止められない形で。
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