マヨネーズ・エナジー
◆マヨイ視点◆
「……え? 誰ですか!?」
『すまない。驚かせてしまったようだ。
私は――しがない騎士の亡霊だ』
騎士の……亡霊?
幽霊、ってことだよな。
なのに、不思議と怖さは感じなかった。
『マヨイ。君には、二つの未来がある』
『一つは、世界の破壊者になる未来。
もう一つは、世界の救世主になる未来。
果たして……君は、どちらを選ぶ?』
「それは……救世主ですよ!」
破壊者なんて――
そんな悪人に、なりたいわけがない。
そう告げると、騎士の亡霊が、わずかに微笑んだ気がした。
『君には、九つの物語を巡り、世界を救う役割がある。今回は――その初戦だ』
「物語……? どういうことですか?」
首を傾げて問いかける。
だが、騎士はそれ以上、何も答えなかった。
『さあ!君のそのマヨネーズで、あの魔族を倒すんだ!』
「ええええっ!?マヨネーズで、どうやって倒すんですか!?」
調味料で魔族を倒すとか――
正直、どう考えても無茶だ。
でも……僕には、これしかない。
『決心したようだね。では――健闘を祈る』
その言葉を最後に、騎士の亡霊は霧のように消え去った。
僕は魔族の方へ視線を向ける。
そこには、ボロボロになりながらも、必死に立ち続けるレーナの姿があった。
「……僕が、守らないと」
右手に、白い瓶が現れる。
マヨネーズ瓶を強く握りしめ、僕は一歩、前へ踏み出した。
◆
「マヨイ君……来ないで!!あなたじゃ、無理よ!」
レーナは、必死に僕の前に立ち、庇おうとしてくれている。
でも――
「オヤオヤ?ただの人間が、この俺様に歯向かうつもりか?」
魔族は、耳障りな笑い声を上げた。
「アハハハ!実に愚かだな、人間という生き物は!」
鋭い殺気が、レーナへ向けられる。
魔族は、今にもトドメを刺そうとしていた。
「……僕だって」
喉が震える。
怖い。正直、足も動かない。
それでも――
「やる時は、やるんだ――よっ!」
叫ぶように言って、僕はマヨネーズ瓶を魔族の足元へ投げつけた。
ズルッ!
「なっ……!?」
魔族の巨体が、情けなく滑る。
「き、貴様あああ!!何をしやがる!!」
「マヨイ君!?な、何やってるの!?」
レーナは、完全に予想外の光景に目を丸くしていた。
……よし。
彼女は、無事だ。
僕は、瓶を再び召喚し、マヨネーズを一気に飲み干す。
その瞬間――
カチリ、と。
心の奥で、何かが切り替わった。
『マヨネーズ・エナジー――オン!!』
白い仮面が顔を覆い、全身に、白い力がまとわりつく。
視界が、世界が、歪む。
「……かかってきやがれ」
声が、さっきまでの"僕"じゃない。
「ゴミ野郎。オレが――全部、終わらせてやる」
◆
「……来いよ」
オレが一歩、踏み出した瞬間だった。
ドンッ――!
地面が砕け、視界が一気に魔族へと迫る。
さっきまで感じていた恐怖が、嘘みたいに消えていた。
「なっ――速っ!?」
魔族が声を上げた、その瞬間。
ドゴォッ!!
オレの拳が、魔族の腹部にめり込む。
硬いはずの肉体が、紙みたいにへこみ、衝撃が内部へ突き抜けた。
「がっ――!?」
魔族の巨体が宙に浮き、噴水広場を転がる。
「はっ……弱ぇなぁ」
気づけば、口元が歪んでいた。
笑っている。
自分でも分かるくらい、楽しんでいる。
魔族が体勢を立て直し、黒い魔力を纏う。
「き、貴様……人間ごときが……!」
「人間?違ぇな」
オレは地面に散らばったマヨネーズを、指ですくい取る。
「オレは――マヨラーだ」
次の瞬間、魔族の懐に潜り込む。
バキッ!
ゴシャッ!
ドンッ!
拳、肘、膝。
思いつくまま、叩き込む。
魔族は防御する暇もなく、ただ殴られ、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……がぁ……!」
「どうした?さっきまでの威勢はよ」
オレは魔族の角を掴み、そのまま地面へ叩き伏せた。
ズガァン!!
石畳が割れ、粉塵が舞う。
「やめろ……やめてくれ……!」
さっきまで人を嘲笑っていた声は、もうない。
あるのは、震えた命乞いだけ。
オレは拳を振り上げる。
――これで終わりだ。
そう思った、その時。
……あ?
拳が、止まった。
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