表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

迷い人

はじめまして、浜坂です!

 ◆レーナ視点◆


 ――八年前、アズベルト帝国・帝都。



「いったい……何が、起きてるの?……」


 私の名前は、レーナ・フレイムハート。

 十歳の私は、お父さんのパン屋さんを手伝いながら、毎日のんびりと暮らしていた。


 でも、その平穏は突然壊れてしまう。


 空が赤く染まり、街に火の手が上がる。

 まるで、世界が一瞬で崩れていくみたいに。


 逃げる途中、街の中心で目にしたのは、白い仮面をつけた男の子。

 彼はじっと立ち、混乱する人たちを見つめていた。


「危ないよ!早く逃げて!」

 思わず叫んだ瞬間、男の子は兵士たちに囲まれてしまう。


「どうして……兵士たちが剣を向けてるの?」


 足が止まり、頭が真っ白になる。

 でも、その疑問はすぐに消えた。


 男の子が手をかざすと、白い液体がふわっと舞い、兵士たちはふっと吹き飛ばされた。


「え……何それ?」


 その時、ようやく気づいた。

 この子が、帝都を壊した犯人だってことに。


「君は、いったい何者なの?……どうして、こんなことを……」


 怖いけど、気になる。

 心臓はドキドキ、手も少し震える。

 それでも、気づけば声をかけていた。


 男の子はゆっくり振り返り、にっこりと不気味な笑顔を向けた。


「オレは、マギアス。どうしてって?

 そりゃあ、この帝国を――終わらせるためさ!」


 終わらせる?

 なんで、そんなことを?


 私は、その言葉の意味が、全然わからなかった。


 ◆


 ――八年後、現在。

 アルフィリア王国・国境付近の町。



「マギアス……また、あの日の夢……どうして、この夢を見ると、いつも泣いてるんだろ……私」


 最近、あの日の夢を見ることが多くなった。

 けれど、目が覚めると内容はほとんど思い出せない。


 ただ一つ、はっきり覚えているのは――

「マギアス」という名前だけ。


 そんなことを考えながら、私はしばらく呆然としていた。


 その時――


「ちょっと貴方、寝てる場合?

 このパン……どうなってるのよ!」


 はっとして顔を上げると、目の前には顔を真っ赤にした女性客が立っていた。


 手には――マヨネーズまみれのパン。


「マヨネーズ……また、マヨイくんの仕業ね」


 私は小さくため息をつき、すぐに頭を下げる。


「大変申し訳ございません!

 こちらの不手際です。すぐに返金いたしますので!」


 そうして対応している間にも、別のクレーム客が次々と現れた。


 ――もう……どれだけやらかしてるのよ!!


「お義父さん!お客さん対応、お願い!!」


 私は店の奥へ声を張り上げる。

 そこは、パン屋の店主、つまり私の養父がいる場所だ。


「私、マヨイくんに文句言ってくる!!」


 どうせ、いつものあの公園で売り子をしているはず。


「ちょっ! レーナ!?

 それ、完全にお義父さん任せじゃないか!」


 背後から聞こえる声を無視して、私は店を飛び出した。



 ◆マヨイ視点◆



「世界一美味しい〜!パンはいかがですか〜!」


 僕の名前はマヨイ。

 今は、この国境の町の公園で、パンの売り子をしている。


 ……もっとも。

 そうやって名乗れるほど、僕は自分のことを知らない。


 僕には、過去の記憶がほとんどない。

 気づいた時には、この町にいて、レーナという火魔法使いの少女に拾われていた。


 彼女の話では、町の近くの森で倒れていたらしい。

 けれど――その時のことは、何一つ思い出せない。


 そんな僕の平穏は、唐突に破られた。


「てめぇよ!何が世界一美味いだ、この野郎!

 このパン食ったら、胃もたれしたんだが!?」


 気づけば目の前には、どう見てもガラの悪そうなお兄さんが立っていた。


「えっと……すみません?

 でも、マヨパン……最高じゃないですか?」


「どこがだあああ!!」


 次の瞬間――


 僕の頭の中に、低く響く声が流れ込んできた。


『マヨイ……今日、この町は終わりを迎える』


 ……え?

 今のは、一体……?


 町が、終わる?

 そんなこと、あるはずがない。


 だって、この町は――

 こんなにも平和なのに。


「おい!話、聞いてんのかあああ!」


「なんで、皆さんマヨネーズをそんなに否定するんですか!?」


 その時――


「それはね……マヨイ君が、常識の範疇を超えた量を使うからでしょ!!」


 赤髪のツインテール。

 見覚えしかない美少女が、勢いよく割って入ってきた。


「レーナちゃん!いいところに来たね!

 このお兄さん、怖くて困ってたんだ!」


「……」


 レーナは一瞬だけ僕を見て、すぐに視線を逸らし、男の方へ向き直った。


「……僕のこと無視?それ、酷くない?」


「この度は、大変申し訳ございません!

 後ほど、このマヨバカは、きっちり叱っておきますので!」


「マヨバカだと!?」


 それは――反論せざるを得ない。


「はぁ……分かった。

 今回は許してやる。次はねぇからな!」


 そう吐き捨てるように言い残し、男は去っていった。


 ◆


「はぁ……なんで、いつもこんなことするの?」


 レーナは小さくため息をつき、僕を見て問いかけてきた。


「それは……誰かに、自分のことを認めてほしいから、かな」


 少しだけ言葉を探してから、僕は続ける。


「僕には、記憶がない。だから今の僕にあるのは……この、マヨネーズを生み出す力だけなんだ」


「なるほどね」


 レーナは腕を組み、少し考えるように視線を落とす。


「私も、火魔法しか使えなくて、学園を休学中だから……その気持ち、分からなくもないけど」


 そして、困ったように微笑んだ。


「さすがに、やりすぎよ? マヨイ君」


 その表情は、確かに優しかった。

 けれど――どこか、影を落としているようにも見える。


「ごめん!でも、どうせなら、たくさんマヨネーズを味わってほしくてさ!」


 その瞬間――


 ドゴォォン!!


 遠くから、爆発音と、いくつもの悲鳴が響いた。


 ◆


「……これは、酷い」


 爆発音が聞こえた方角へ、僕たちは走っていた。


 周囲の家々は焼け落ち、空気には焦げついた匂いが充満している。

 さっきまでの日常が、嘘みたいに崩れ去っていた。


 やがて辿り着いたのは、町の中心――噴水広場。

 そこで、僕たちの視界に飛び込んできたのは――


 青い肌。

 黒く湾曲した角。

 背中に生えた翼。


「あれは……」


「魔族よ……しかも、中位魔族」

 そう呟いたレーナの体は、小刻みに震えていた。


「僕たちじゃ……勝てっこないよ。早く逃げないと!」


「逃げる? 無駄ね」

 レーナは唇を噛みしめ、魔族から目を逸らさない。


「魔族のスピードを舐めたらいけないわ。

 この町が……全滅するのも、時間の問題よ」


「まさか……レーナ、立ち向かう気!?」


「だって……仕方ないじゃない!!」

 叫ぶように言い放ち、彼女は杖を強く握る。


「どうせ、ここで終わるなら……最後まで、抗ってみせるわ」

 そう言って、震える足を無理やり前に出し、魔族の元へと歩き出した。


「……僕は、どうすればいいんだ」


 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


「行かなきゃ……でも、怖い……!」


 その時――


『君が、行かなくてどうするんだ?』


 ガチャリ、ガチャリ――

 金属が擦れ合う音。


 それと同時に、低く落ち着いた男の声が、僕の頭に直接響いた。


 振り返ると、そこに立っていたのは――

 全身を甲冑で覆った、一人の騎士。


 ただし、その姿は――

 まるで霧のように、透けていた。


読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ