最短距離で
空間がまだ
沈黙していたころ
光は想いを持って生まれた
「どこへ向かえば
最も早く 最も深く
届けられるのか」
境界に触れ
屈折しながら
それでも光は
最短距離を選ぶ
それは
一直線ではない
媒質の密度に耳を澄ませ
時に曲がり 時に沈み
それでもなお
最も意味ある軌跡を描く
鏡に映れば
自らを折り返し
レンズに抱かれれば
焦点に身を委ねる
そのすべてが
「最短距離」だった
想いを伝えるための
最も誠実な道のり
そして今
あなたの瞳に届くまで
幾億の選択を越えて
光は語る
「私は あなたの願いに
最短で たどり着いた」
お読みいただきありがとうございます。
注釈1: 最小作用の原理
古典物理学(量子力学ではない)において「最小作用の原理」とは、自然がある状態から別の状態へ移る際、作用(エネルギーと時間の積分量)が最も小さくなる経路を選ぶという原理です。本文では、作用が最も小さくなる経路を「最短距離」と読んでいます。
物体だけでなく、光が進む道もまた、この原理に従っています──それは単なる「最短距離」ではなく、媒質や境界条件を含めた、物理的な軌跡になります。
注釈2: 幾億の選択を越えて
量子力学では、最短距離をとるのではなく、「全ての」経路を確率的にとります。最も確率の高い経路が、最小作用の原理から導かれる最短距離になります。
「最短距離」を少しだけ外れると確率がゼロになるとします。「少しだけ」というのは、物体の大きさに対してとします。すると、物体は事実上「最短距離」つまり確定した経路を通ります。これが私たちに馴染み深いニュートン力学です。一方、物体の大きさよりも大きく「最短距離」を外れても確率がゼロにならない場合には、物体の経路はぼやけます。これが量子力学です。「最短距離」を外れて確率がゼロになってもさらに外れると再びゼロでない確率が周期的に現れると、これはまさしく確率の波です。




