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時空の魔女は師匠を生き返らせたい  作者: ダオ空名
【一章 時空の魔女】
1/15

一話 魔女の子

 あれ、寝たのいつだっけ。意識は覚醒している。でも、目が開けられないし、そもそも体の感覚がない。かれこれこの状態になってから結構な時間が経過している。私は足立裕子(あしだてゆうこ)、女子高生。自分で言うのもあれだけど、普通の女子高生よりちょっと変わっていたと思う。どうしてこんなことになってしまったのか、昨日を振り返ってみる。


 耳障りな目覚まし時計に起こされ、不愉快な気分で私の一日が始まる。2LDKの古くて狭いアパート。床には空き缶、プラスチック包装紙、コンビニで買った食べかけの弁当などなど、ゴミやら生活品やらで足の踏む場を確保するのも一苦労だ。適当に放っておいたしわしわの制服に袖を通したら、その場で数分間体育座りする。ちょっと変だと思うかもしれないけど、これをすると少しだけ元気がでるんだよね。いつもの儀式が終わったら、いよいよスクールバックを持って玄関からでる。顔や歯を洗ったり、髪をとかしたりはしない。ついでに言うと、お風呂もたまにしか入らない。昔はやっていたと思うけど、いつからかやらなくなった。やった方がいいとは思うけど、なんか面倒くさいんだよね。だからなのか、教室に入ると毎回クラスメイトが私を見て、鼻をつまむ仕草をしていたと思う。顔を下に向けていても、ちらっと周囲を見てしまうのだ。嫌な気持ちになることが分かっていても。そして、足早に私の席に向かうと油性ペンでひどい落書きがあった。いつものことだし、洗って落とせるものでもない。気にせず、机に突っ伏して寝たふりをしながら、注意深く周囲に耳を傾けていた。皆楽しそうに雑談していて、時折聞こえる笑い声が不快だった。皆から嘲笑されているようで、惨めな気持ちになる。ああ、そういえば昼休みのあれは結構ムカついたな。なんか机蹴られて、飛び起きたら[いつまで寝てんだよ、バーカ]ってクラスのリーダー格の男子に言われた。その後、陽キャの男女グループがゲラゲラ笑ってたっけ。まぁ、これはマシな方で、ある日は食堂まで食べ物をパシらされて[お前のくっさい体臭がついたパンなんか食えるわけないだろ]と言ってパンを投げつけられたり、[ごめん、お金ないから貸して]とか言われたり、いきなりリセッシュを吹き付けてきて[くっさいから消臭しといたわ]とか言われたりしてたからね。


 お察しの通り私いじめられていました。なんだかんだ、小学生の時からいじめられていたと思う。イジメられるのも当然で、ブサイクだし、臭いし、不器用だし、運動音痴だし、頭悪いし、コミュ症だし、私にいいところは何もなかった。学校は地獄だった。行かなければいいのに、何故か休んじゃいけないと思って無理やり通っていた。家に帰るとお母さんが男を連れ込んで? いたしてた。最悪だ。男の人が焦った素振りをする。


[え、お、おい]


[ああ、うちの娘。別に気にしなくていいわよ]


[そ、そうか]


 服をはだけさせたお母さんがあっけらかんと言っている。私はそそくさと自室にこもると、聞きたくもない声や音がドア越しに響いてきた。これが私の日常。そんな生活を送っていたから、ストレスも半端じゃなくて、毎日パキってた。パキるっていうのは風邪薬を三十個くらい一気飲みすることね。これすると楽になるってネットであったから、半信半疑でやってみたら本当に楽になれてビックリ。気分がハイになるっていうか、ストレスとか不安とかそういうネガティブな気持ちが一瞬でなくなるんだよね。昨日もパキって気分が良くなったから、久しぶりにお風呂入ってから寝たはず。


 そして、今の暗闇状態に至りました。まるで、マンホールの下をのぞき込んだときの底が見えない程の暗闇。夢の中なのかなと思ったけど、ここまで意識がはっきりしているかなぁ。金縛りにあっている可能性もあるけど、どうなんだろ。本来ならもっと焦ってもいいと思うんだけど、ぶっちゃけ結構居心地が良かったりする。なんとなく温かみが感じられるし、雑音も周囲の視線もないし、穏やかにいられる。ずっとこのままでもいいかなぁと思った矢先、いきなり真っ白な世界に放り出された。


 眩しい、視界がすごいぼやけている。耳鳴りもすごい。こんな朝の目覚めは初めてだよ。本当に私どうなったんだろ。流石にパキりすぎたかな。あれって危険な行為らしいし、もうやめようかな。でも、あの気持ちよさを体験するとなぁ。やっぱパキるのやめたくないなぁ。そんなどうしようもないことで悩んでいると、少しずつ景色が見えてきた。正面に見知らぬ男性がのぞき込むようにこちらを見ていた。くたくたになったシャツを着た金髪碧眼の男性はほっとしたようなそんな表情を浮かべている。そして、見下ろすように見ている青髪の女性が優しい表情をしていた。え、何、この状況。なんで知らない男が私の部屋にいるの! しかも、金髪に青髪って外国人!? 


[おぎゃあ、おぎゃあ!!]


 咄嗟に叫ぼうとしたら、これ、私の声? 言葉がでない。なにこれ? まるで赤ん坊になったみたい。男は心配そうな表情をつくると、私に手を伸ばしてくる。どうしよう、どうしよう、こわい、こわい! 怖いと思うほど、泣き声が大きくなって、目から涙があふれる。私はなんとか身体を動かそうとするけど、上手く動かせない。抵抗むなしく、男の腕が私の背中に滑り込むとそのまま抱きかかえられる。


[~~~~~~]


 男の人が私に何かを語りかけてくるけど、何を言っているのか全然わからない。そして、今まで気づかなかったけど、私すごく小さくなっている。だって、女子高生の私が男性の腕の中にすっぽり収まるはずがない。一向に泣き止もうとしない私に男の人は少し困ってそうだ。そして、元の位置に私を戻すと今度は女の人が抱きかかえ、腕を揺りかごのように動かす。ああ、もう。色々ありすぎて疲れちゃった。それに、眠くなってきたしもう寝ようかな。考えることを諦めた私は意識を手放すことにした。


 あの日から五年が経った。どうやら、私は別世界に転生してしまったらしい。私が生まれたこの村は自然が豊かを通り越して、森の中に住んでいる感じだ。村の人の名前と顔は全部覚えられる位には小さな村だ。この世界は技術があまり発展していなくて、前時代的。土壁と木で造られた我が家は、隙間風びゅうびゅうで台風が来た日には家が飛んできそうだったよ。前世のような家電など存在するはずがなく、料理するときは火打石で火をおこし、食べ物は基本的に燻製して保存して、水は村の中央にある井戸からくみ上げる。そんな私は村の外れにある森でぼーっとしている。森の奥までいくと魔物がでてくるので、私は森の中に入ったすぐのところで時間をつぶしていた。周囲は木々だけでなく、青白く光る粒子がちりばめられている。この青色の粒子は普通の人には見えないらしく、私も最初は見えてなかったんだよね。ある時、青色の粒子が見えるようになって、皆にそのことを言ったら気味悪がれ、しまいには魔女の子と言われる始末。そんなこともあって、村人達との仲は最悪。無視されるのはいい方で、私を見るなり怒鳴ってきたり、水をかけてきたり、石を投げて厄介者扱いされるのだ。だからこうして、村人が寄り付かない場所に来ていたのだけど、はぁ、最悪だ。足音がする。こう、バタバタと複数人が走ってくる感じ。


[お、魔女の子はっけーん]


[……]


 ガキ大将のアーミルとその取り巻き達だ。私は聞こえていない振りをして無視する。


[魔女の子のくせにむししてんじゃねぇよ!]


 アーミルの蹴りをそのまま受けて、私は地面に転がる。けっこう痛い。でも、痛いのは慣れてる。怯える姿を誰かにさらす方が嫌だった。私はありったけの憎しみを込めてアーミルを睨んだ。


[うぜぇな、お前。今日も悪さしないようにせいばいしてやるよ。お前ら両手おさえろよ]


[うーい]


 アーミルの取り巻き達がニマニマしながら近づいてくる。当然、好きにはさせない。立ち上がって、握りしめていた土を投げつける。


[うわ!? 目が……]


 私は取り巻きの顔面に右ストレート。手が痛い。


[てめぇ、よくもやったな!]


 他の取り巻きがとびかかってきて、そのまま押し倒されてしまう。馬乗りにされた私は何度も殴られる。顔が熱い。鼻から何かが垂れてくる。なんとか相手の手を両手でつかんで、相手の指を力の限り噛みついてやった。


[いててててて!?]


 相手が飛び跳ねてひるんだすきに立ち上がったら、後ろから羽交い締めにされてしまった。逃れようとして暴れるけど、抜け出せない。前世で格闘技でもしておけばよかったかなと、後悔。


[よーし、しっかりおさえてろよ。魔女をせいばいしてやる。オラ!]


[うっ……]


 みぞおちにアーミルのパンチが入る。子供のパンチでも痛い。


[パンチ、キック!]


 こっちが身動き取れないことをいいことに、好き放題攻撃してくる。


[アーミル、俺にもやらしてくれよー]


[分かってるって。これで、最後だ!]


[ぐ……]


 最後に思いっきりみぞおちにパンチを食らってから拘束が解けると、私はそのまま地面にへたり込んでしまった。胃液が逆流しそうになるのと、惨めな自分に涙が出そうになるのを必死に耐える。今度はアーミルに羽交い絞めにされると、私は取り巻き達に殴られ、蹴られるのであった。そんなことが繰り返され、いつのまにか夕暮れ時になっていた。


[はぁ、はぁ、これでこりただろ。お前ら、いくぞ]


 アーミル達が去ったのを確認して、ホッと一息をつく。


[はぁ、やっと終わった……]


 服は泥だらけでしわくちゃ、服をめくってお腹をみると赤く腫れあがっていた。頬をなでると熱くて、なんとなく膨らんでいる感触があった。


[う、……く、うぅぅ。殺してやる、あいつら絶対殺してやる!]


 地面に突っ伏したまま、私はついに我慢できなくなってしまった。土を掴んで、思いっきり握りしめる。私はその場でうずくまって大声が漏れないようにして、泣き喚いた。


[はぁーーーー。泣いたら、少しだけ楽になった。とりあえず、帰ろう。憂鬱だけど]


 腕で目をぬぐって、なんとか立ち上がり、私は家に向かって歩く。ある意味、ここからが本番だ。


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