悪役令嬢だけど、断罪直前に前世の記憶を取り戻しました。全然冤罪じゃないけど、私を裏切ったことを後悔させるために冤罪ってことにしておきますね。
乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生した。
それも、断罪直前に前世の記憶を思い出した。
今私は、公衆の面前で断罪されている。
「フランセット・アレクサンドル!貴様は王太子である私の婚約者という身分で男爵令嬢エズメを差別して害したな!」
ええ、全くその通りです。
王太子殿下の仰る通り、私は男爵家の娘でしかないその女を王太子殿下が構うのにキレて壮絶なイジメを繰り返しました。
たとえば教科書に陰湿な落書きをしたり、机の上に花を飾ったり、魔術で水を制服にぶっ掛けたり、階段から自ら転げ落ちるように魔術で罠を張ったり。
でも、私だけが悪いんですか?
婚約者がいる男性に近寄って、甘えて、浮気して恋仲になったその女が悪くないと仰るの?
婚約者がいる身でありながら女の子を侍らせて、甘やかして、浮気して恋仲になった貴方は悪くないと仰るの?
そんなの絶対許さない。
後悔させてあげる。
「………国王陛下、発言をお許しください」
「許す」
「父上!?」
「まず最初に。王太子殿下とそちらの男爵令嬢の恋仲は学園内で、公然の秘密となっております」
「ほう」
私の言葉に王太子殿下は青ざめる。
「だ、黙れ!」
「黙るのはお前だ、バカ息子!」
「え、父上…?」
「続けろ」
「はい。ですので、王太子殿下は私に対して不義を働いていらっしゃるのです。だからこそ、恋仲であるそこの男爵令嬢と共謀して私を嵌めようとしていらっしゃるのです」
国王陛下は目を細めた。
「では、全ては息子の虚偽だと申すか」
「はい!」
「そんなわけないだろう!」
「そうよそうよ!」
「だから!お前たちは黙っていろ!!!」
国王陛下の一喝で再び黙る王太子殿下と男爵令嬢。
「それで、証拠はあるのか?イジメをしていないという、証拠は」
「…ここに、魔道具があります」
この魔道具は、私が得意の闇魔術を駆使して作ったものだ。
頭の中のイメージを投射するもの…なのだが、世間に発表していないから誰もその効力を知らない。
世界にたった一つだけの、私の発明品の強みだ。
「こちらは、過去を映す魔道具となります」
「ふむ、過去を映す魔道具…実際、関係ない過去を映してみせよ」
「はい」
子供の頃、まだ仲の良かった頃の私と王太子殿下の姿を映す。
もちろん自分の姿なんて自分では見られないから、これはあくまでイメージでしかないけど…通じろ、頼む!
「うむ、本物のようだな」
「では次に、こちらをご覧ください」
私は私に都合のいい〝過去〟をイメージする。
『ねー、あの女いい加減邪魔だし消しちゃおうよー』
『それはいい考えだな、リズ。でもどうやってフランセットを消す?』
『冤罪でも吹っかけて陥れればいいじゃん!証拠なんていくらでも捏造できるよ!』
『さすがはリズだ!頼りになる!』
『そうでしょう?えへへ』
下着姿で絡まり合いながらそんな会話をする二人をイメージした。
あちこちから悲鳴が上がる。
「なんて破廉恥な!」
「公衆の面前で一人のご令嬢を晒しあげるなんてとは思ったが、よもや冤罪だったとは…」
「王太子殿下とはいえ、許されることではありませんぞ!」
「違う!俺たちはこんなことはしていない!」
「そうよ!リズはまだ純潔なんだから!」
ちょうど良いところにアシストが入った。
ならばイメージを膨らませよう。
『王太子殿下ぁ〜…』
『リズ、リズ』
『あ、もうそれ以上はダメっ…純潔は結婚後に捧げるわ』
『お預けは寂しいな』
『口でしてあげるから、ね?』
二人が絡み合い、それでも純潔を奪わなかった描写を入れる。
「やはりきちんと過去を映しているではないか!」
「あそこまでしておいて何が純潔だ馬鹿馬鹿しい!」
「てかえっろ…」
「見ないで、見ないでー!違うのー!」
「俺たちは本当に、こんなことはしていない!」
ええ、そうでしょうね。
だって私の勝手なイメージだし。
「ということで、おそらく国王陛下に提出されているであろう証拠は捏造品です。証拠能力はありません」
「よかろう。そなたの証言とその魔道具の映した映像を証拠として認める」
「父上!?違うのです!捏造です!」
「ならその証拠を用意できるのか」
「それはっ…」
無理だろう。
やっていないことを〝やっていない〟と証明するのはとても難しい。
前世の記憶によると…悪魔の証明、とか言ったか?
そういうものらしい。
それに、私はいじめを誰かにやらせたりしていない。
必ず自分で、人目のないのを確認してからやった。
だから、証言の積み重ねとかも無理だろう。
「…父上、信じてください」
「証拠はないようだな。してフランセット嬢。こやつの処分とこれからの話をしよう。まず、婚約は続けるか?」
「いえ…こんな裏切りにあっては、もう王太子殿下をお支えすることはできません…」
「そうだろうな…愚息がすまない」
「いえ、そんな…!」
健気に見えるよう振る舞う。
「ならば息子の有責で婚約を破棄しよう。賠償金は必ず支払う」
「ありがとうございます、国王陛下」
「そして息子は、断種の上離宮に閉じ込めよう。離宮での世話係は、そこのフランセット嬢を陥れようとした男爵令嬢を任命する。二人だけでの蜜月を楽しむが良い」
「そんな!」
「父上、その女に騙されています!どうか話を聞いてください!父上!」
「公爵家の娘を冤罪で陥れようとした罪人どもだ、早く別室に連れていけ」
「はい!」
二人は別室に連行され、今日の王宮でのパーティーはお開きとなった。
私の、完全勝利で。
本当は、危ない賭けだとわかっていた。
過去を映す魔道具ではないとバレていたら、一人でも証言者があちら側にいたら。
うまくは誤魔化せなかっただろう。
それに今後何かの役に立つからと過去を映す魔道具の提供を求められることがあるかもしれないから、急いでそういう魔道具の作成をしなければならない。
まだまだ、気は抜けない。
あれから半年が経った。
今でもあの頃の私の悪事と嘘はバレていない。
過去を映す魔道具も作成完了して、なんとか王宮に提出を求められる前に間に合った。
あの時の魔道具と形も似せているからバレることはないだろう。
ちなみにあの時の魔道具で映したイメージを、過去を映す魔道具の中に偽の映像として忍ばせている。
そして、私があの男爵令嬢を虐めた映像は映せないように厳重に加工した。
魔道具を弄られて調べられてもボロが出ないように。
「これで一安心、よね」
私は王太子殿下の有責で婚約を破棄した。
賠償金と慰謝料はたんまり入ったから、ありがたい。
家にも私の個人資産にも多額の貯金が増えた。
でも、虚しいのはどうしてだろう。
「王太子殿下と男爵令嬢も、結局は幸せそうだし」
使い魔を使って調べたところによると、王太子殿下は本当に断種され離宮に閉じ込められた。離宮でのお世話係は、あの男爵令嬢一人。でも真実愛し合っていた二人は、本当に二人だけでの蜜月を楽しんでいた。
ああ、虚しいなぁ。
結局後悔させられなかった。
なんなら二人きりで暮らしていけるようにしてくれたと、今では心から感謝されてるっぽい。
いっそのこと虐めた事実を認めて罰されていた方が良かった?
いや、その場合…乙女ゲームの設定通りなら、国外追放処分を受けるし家族にも責任が及んだ。
こうなった以上は私にとってはこれしか方法はなかった…と、思う。
でも、虚しい。
悲しい。
惨めだ。
婚約者を裏切って、他の…身分の低い令嬢に手を出した。
私は彼女を本当に愛してしまった。
私は邪魔になった婚約者を切り捨てようと断罪劇を起こした。
結果、私は婚約者に返り討ちにされてしまった。
離宮に幽閉されて、愛した人とふたりぼっちの生活が始まった。
けれどそれは、案外悪くない日々だった。
穏やかで、幸福な日々。
愛する人とともにいられるだけで幸せだ。
そこで思い至った。
彼女は曲がりなりにも私を愛してくれていた。
その彼女にとって、私の裏切りがどれほど酷なものだったか…。
愛するリズも、それに思い至ったらしく時々罪悪感を露わにする。
だが、表面上はお互い蜜月を楽しんで幸せそうに過ごす。
ああ、フランセット。
君を裏切って、本当にごめん。
そして、幸せで苦い日々をくれて…ありがとう。
…本当に、申し訳なかった。
ハッピーエンドにするつもりがビターエンドになりました。
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