◆12 王の試練
カインが王座に手をかけようとした瞬間、空間全体が深く震えるような音を立てた。その音は低く響き渡り、彼の胸を締め付けるような重みを持っていた。王座の輝きが一層強まり、脈動する赤金色の光が波となって空間を満たしていく。
足元の床が揺れ始め、まるで湖面のように波紋を広げていく。その波紋は徐々に黒い影を形作り、やがて人の姿を成していった。
「またか……」
カインは槌を握り直し、深く息を吸った。影はゆっくりと具体的な形を取り、やがて自分と瓜二つの姿へと変わった。ただし、その姿には明らかな違いがあった――全身を覆う黄金の鎧。その鎧は美しさと威圧感を併せ持ち、表面には赤い光が流れる奇妙な紋様が刻まれていた。その目は冷たく、まるでカイン自身を試すように鋭く見つめている。
「お前がここにたどり着いたということは、覚悟があるということだな」
その声は冷たく、重々しく響いた。カインは言葉に詰まりながらも、なんとか返した。
「覚悟ならある!この力を使って……守りたいものを守るんだ!」
「守るだと?」
黄金のカインは冷たい微笑を浮かべた。
「お前が本当に何かを守れるかどうか、ここで証明してみせろ。覚悟を口先だけで語るな」
その言葉と同時に、黄金の槌が音を立てて床に振り下ろされた。その衝撃で空間全体が震え、赤い光が足元から噴き出した。
カインはとっさに飛び退き、黄金の槌が叩きつけた床の裂け目を見下ろした。その隙間からは燃えるような熱風が吹き上がり、顔に触れるたびに皮膚が焼けるように感じられた。
「速い……!」
カインが槌を握り直し、反撃の構えを取る前に、黄金のカインが再び間合いを詰めてきた。その動きは人間のそれを超越しており、まるで風のように滑らかだった。槌が横から振り払われると、カインはなんとか槌で受け止めたが、その衝撃で腕が痺れ、足元が滑る。
「これが、お前の限界か?」
冷たい声が再び響く。黄金のカインの動きには余裕があり、まるで遊ぶように次々と攻撃を繰り出してきた。カインは槌を振り回しながら防戦一方だったが、相手の一撃一撃が重く、受けるたびに体力を削られていく。
「まだだ……!」
カインは槌を振り上げ、力任せに一撃を放った。その攻撃が黄金のカインの胸元に命中し、鎧に小さなひびを入れる。だが、相手は微動だにせず、静かに槌を持ち上げて言った。
「守るという言葉は軽い。お前が追い求めたものが救いになるか破滅になるか、分かっているのか?」
その言葉がカインの胸に刺さる。守るべきもの――村、仲間、過去に失った命。それらを思い浮かべるたびに、彼の心は揺れた。
戦いはさらに激しさを増した。黄金のカインが槌を床に叩きつけるたびに、大地が裂け、赤い炎が噴き出した。その炎が周囲を覆い、カインの視界を歪ませる。その中で、相手の槌がまるで光のように素早く動き、カインの防御を何度も弾き飛ばした。
「くそっ……!」
カインは汗で滑る手を拭いながら、体制を整える。彼の体力は限界に近づいていたが、立ち上がることだけはやめなかった。目の前の存在が「覚悟」を問うたのなら、それを示さなければならないという思いがあった。
槌を構え直し、彼は再び突進した。黄金のカインが槌を振り下ろしたその一瞬、カインは体を低くしてその攻撃をかわし、渾身の力を込めて槌を振り上げた。その一撃が相手の足元を崩し、バランスを崩させた。
「これで……終わりだ!」
カインは叫び、最後の力を振り絞って槌を振り下ろした。その一撃が黄金のカインの胸元に直撃し、鎧を砕いた。黄金のカインは膝をつき、冷たい微笑を浮かべながら呟いた。
「お前が選ぶ道が、この世界をどう変えるか……それを知るのは、お前自身だ」
その声と共に、黄金のカインの姿は霧のように消えていった。
カインは槌を地面に突き立て、荒い息をつきながら王座を見上げた。その輝きはなおも彼を誘い続けている。
「これが……覚悟だというのか」
彼はゆっくりと王座に腰を下ろした。その瞬間、全身を貫くような冷たい力が彼を包み込み、視界が赤金色の輝きに飲み込まれていった。