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月日は巡って、六月。雨季。命の嫌いなウェイトトレーニングの量が多くなる。そして洗濯物も。彼女は新しく入った一年にすべての洗濯を任せることはしなかった。大事な服、試合服や勝負服はやはり自分の手でふわふわにしたいと思ったから。柔軟剤をいちいち指定して、間違えられるのも面倒だ。そして何より、雨の日のコインランドリーは心が落ち着く。それが大きな理由だった。
洗濯物を大型洗濯機に放り込み、洗濯材と柔軟剤、そして百円を入れ、そばのパイプ椅子に座った。雷の音が遠くでした。誰かに迎えに来てもらう必要がありそうだった。その時、コインランドリーの戸が開き、いかつい感じの男がずぶぬれになりながら中に入ってきた。命は一目見て、雨から逃げてきたのだなと分かった。
「これを着ろよ」
男は来ていた革ジャンを脱いで言った。
「これから雨はひどくなる。近く雷も来るしな。おれは少し目を休ませに来ただけだから。もう行く」
男は行ってしまった。そしてその通り雷が鳴った。命は、男の渡してくれたジャンバーをどうしていいかわからず、監督に電話をかけた。まもなくして監督は来た。監督は男――徹のことを知っていた。この辺りの走り屋で、監督が言うにはあんな奴とかかわりにならないほうがいいとの事だ。自分も含めて良識ある大人は、彼のことを皆嫌う。欲望に忠実――それは正直と言っていいほどだ――だからだ。それで命は、それはどんな欲望かと監督に訊いた。
「破壊衝動」監督は一言で片づけた。「こんな世界は汚れてる、だからぶっ壊してやるといった感じだよ。やつはまともじゃない」
「あるいは誰よりもまともなのかも」命は言った。「だから世の中に納得できない」
「火野、山崎はもう二十七なんだ。そろそろ分別がついてもいい頃だ。いつまでもそんなことぬかしてるやつに未来はないよ」
「そうなの?」
「あいつは今頃、どっかの国道か峠でスピード違反を犯してる頃だろう。俺たちとは住む世界が違う」
「じゃあ私はどんな世界に住んでるのよ?」
「ここだ」
千知監督はまた一言で片づけ、その日は命の方を見向きもしなかった。