表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〜水面砕ける〜  作者: 中川 篤
プロローグ
3/6



 月日は巡って、六月。雨季。命の嫌いなウェイトトレーニングの量が多くなる。そして洗濯物も。彼女は新しく入った一年にすべての洗濯を任せることはしなかった。大事な服、試合服や勝負服はやはり自分の手でふわふわにしたいと思ったから。柔軟剤をいちいち指定して、間違えられるのも面倒だ。そして何より、雨の日のコインランドリーは心が落ち着く。それが大きな理由だった。


 洗濯物を大型洗濯機に放り込み、洗濯材と柔軟剤、そして百円を入れ、そばのパイプ椅子に座った。雷の音が遠くでした。誰かに迎えに来てもらう必要がありそうだった。その時、コインランドリーの戸が開き、いかつい感じの男がずぶぬれになりながら中に入ってきた。命は一目見て、雨から逃げてきたのだなと分かった。


 「これを着ろよ」


 男は来ていた革ジャンを脱いで言った。


 「これから雨はひどくなる。近く雷も来るしな。おれは少し目を休ませに来ただけだから。もう行く」


 男は行ってしまった。そしてその通り雷が鳴った。命は、男の渡してくれたジャンバーをどうしていいかわからず、監督に電話をかけた。まもなくして監督は来た。監督は男――(とおる)のことを知っていた。この辺りの走り屋で、監督が言うにはあんな奴とかかわりにならないほうがいいとの事だ。自分も含めて良識ある大人は、彼のことを皆嫌う。欲望に忠実――それは正直と言っていいほどだ――だからだ。それで命は、それはどんな欲望かと監督に訊いた。


 「破壊衝動」監督は一言で片づけた。「こんな世界は汚れてる、だからぶっ壊してやるといった感じだよ。やつはまともじゃない」

 「あるいは誰よりもまともなのかも」命は言った。「だから世の中に納得できない」

 「火野、山崎はもう二十七なんだ。そろそろ分別がついてもいい頃だ。いつまでもそんなことぬかしてるやつに未来はないよ」

 「そうなの?」

 「あいつは今頃、どっかの国道か峠でスピード違反を犯してる頃だろう。俺たちとは住む世界が違う」

 「じゃあ私はどんな世界に住んでるのよ?」

 「ここだ」


 千知監督はまた一言で片づけ、その日は命の方を見向きもしなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ