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〜水面砕ける〜  作者: 中川 篤
プロローグ
1/6



 (みこと)は何かあるとすぐ怒鳴る部の監督が嫌いだった。命を指導してる監督はオリンピックに出場経験があるらしく、大学の外から来た人間で、


 「おらア――! 走れえええ!」

 「はああああい!」


  何もかもこの調子、昭和なんだ。


 人格者だっていうことは命も認めた。しかし怒りっぽいのがそこに傷をつけていたようにも思う。彼女の目には監督は、何かあると直ぐ怒り、講演かなんかの依頼があると面倒くさがって、一言二言話しただけで席を立ってしまう――要するに自分のスポーツ以外の義務を果たさない大人のように見えていたんだ。


 とはいえその千知監督のその情熱は本物だったし、命も認めた。育てたアスリートは数知れなかったし、聴くところによると、部の皆は大体、千知監督に恩義を感じていた。


 彼女は興味があってこのスポーツの世界に飛び込んできたわけではなかった。命がこの部に惚れたというより、千知監督が命に惚れこんだといった方が正しい。じっさい、火野命にはその才能があった。今年で一年目にしかならないが、大学の門をくぐったときから高身長は人目を引いたし、物おじしない度胸もあった。試験官をうならせる頭の冴えも他には類を見なかった。そこに加えて、勝負勘まであったからそうした諸々が重なって、いま命は千地にじきじきに教えを受ける――師事をしている――状態にあった。


 命がいたのは名門のカヌー部がある大学で、合宿所は特別強化の選手たちだけが住んでいた。命はその中で一番下っ端だったけど、ヘイヘイと何でもやった。掃除洗濯炊事にカタモミから何なりと……。


 先輩たちの人使いは荒くって厳しい。上下関係がハッキリしている場所で、命はここでは自分の立場が一番下なのだと認識させられたが、水上では違う。水の上なら。練習の際、彼女は先輩に軽く船一つ分の差をつけて勝利して、そしてますますしごきは厳しいものになった。けど命はそれを苦にも思わず、涼しい顔でやり過ごした。自分より遅い人間に何を言われようと気にする必要はない。きっとそうだ。




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