2人の主人公
街中を2人の少女が歩いている。
「アリス、君が食事に誘うとは…珍しいこともあるな」
「だってノアちゃん、今日は暇そうにしてたから。いつも暇そうなら毎日でも誘うんだけどな~」
「暇…か。ドアがもう現れなくなれば、そんな日々も来るだろうな」
「だから私たちが頑張って研究しないと!」
「あぁ、そうだな」
ノアと呼ばれた少女からほんの少しだけ笑みがこぼれる。
彼女たちにとって数少ない"平和な"日常と言えるものだ。
だが、そんな平和な日常は一つの悲鳴によってすぐに終わりを迎える。
「ま、魔物だ!魔物が出たぞ!」
叫び声をあげた男のすぐ目の前には、大きな角を持った黒い怪物がいた。
怪物は少しずつ男に近づきつつ、獲物を品定めするような目で周りを見渡す。
それを見ていた周りの人間が、何もしないでたたずんでいるわけがない。
然るべき機関に通報する者、早くその場を離れようとする者、茫然とたたずんで呆気にとられるもの。
腰の抜けた男をよそに民衆たちの逃げ出す足音、そして悲鳴がこだまする。
―――2人の少女を除いて。
そう、これが彼女たちにとって本来の"日常"だ。
「どうやら、私の出番のようだな」
ノアは怪物ではなく怪物の先にある、空間に開いた"穴"を見てそう言った。
それに対してアリスは薄い電子端末を操作しながら答える。
「そう言うと思って、魔物対策局とうちの所長に連絡済み!」
「状況から考えて小規模なバックドアか、すぐに対処する」
「ノアちゃんの予想通り、死神憑き1人で閉鎖できるサイズのバックドア。閉鎖許可も出たよ!」
「いつも通り仕事が早いな。それでは始めよう」
そう口にしたノアの手には"鍵"が握られている。
ドアや自転車、金庫などに使われる鍵とは異なる、歪な形をした鍵。
それをノアが構えるとノアの目の前、何もない…強いて言うのであれば空気のある場所に黒い鍵穴が現れた。
「開け、死神の扉」
その言葉と共にノアは鍵穴に鍵を差し込み、回す。
そうすると鍵穴はまるで虚空への門を開けるように、黒い穴として広がる。急速に広がる黒い穴は、大体半径20cm程度の大きさで、ピタリと拡大を止めた。
そして、ノアは黒い穴から勢いよく手を引き抜く。
その手に鍵は無く、代わりに大きな鎌が握られていたのだった。
-----------------------------------------------
2110年、人類の7割が不老不死へと至った。
しかし、絶対に死なないというわけではない。
魔物と呼ばれる地球外生命体だけは現人類を殺すことができる。
その魔物を対処、研究することが彼女たちの仕事だ。
―――これは永久を告げられた世界で終末を乗り越える、2人の主人公の物語だ。