第六話 メッセージは難しい
奏から連絡が来たのは思ったよりも早かった。
なんなら樹が寮の部屋について少ししたらスマホにメッセージが届いていた。
先輩、今日はありがとうございました。
出来るだけ早めにケリつけれるようにするので期待して待っててください。
一体樹に何を期待して待ってろと言うのか。
かと言って返信をしないことのは少し抵抗がある。
こういう雑な行動で数少ない人間関係が崩れる可能性もある。
少し悩んだが樹は『了解』とだけ返信した。
「返信してるだけまぁオッケーだよね」
あまり人と関わらない樹にとってこの返事は当たり障りのない完璧な回答だと考えていた。
☆★☆★
三日後、相変わらず放課後最速図書室暮らしをしている樹の元に奏がやってきた。
「先輩、日程決めてきましたよ。今週の土曜日になっちゃいましたけど……」
ケリをつける目処がたったはずなのに、奏はなぜか浮かない顔をしていた。
「ん?なんか問題でもあったのか?」
「え、あー報告出来るまで3日もかかったし、休みの日になっちゃったしでちょっと怒られるかなぁ〜って」
どうやら奏の中で樹はすぐ怒るように思われていたみたいだ。
この前話した時から帰る時まで特に怒ったりしていないはずだ。
「俺……何かそんなふうに思われることしたかな?一切心当たりないんだけど?」
「いやぁ……なんかメッセの返事に圧があって、出来るだけ急がないとやっぱり迷惑かと思っただけよ」
どうやら樹流完璧解答に問題があったようだ。
早くしろとか迷惑とか何も書いてなかったはずなのになぜなのだろう。
「了解ってそんな悪い言葉じゃないと思うんだけどねぇ?」
「いやいやそこじゃないでしょ!なんかちょっと気の利く一言とかさ?一言だけならスタンプとかで可愛く返信するとかさ!」
「なるほど、よくわからん」
正直社交辞令みたいな連絡に気の利いた一言も思いつかない。なんならスタンプとかの返事の方が雑に返事してる感があるのでは無いだろうか。
「まぁ連絡とかが好きじゃないタイプで私の考えすぎってことですか。めんどくさい人だなぁ……」
「おい勝手な考えでめんどくさい人にしないでくれ。しかもなんなら直接話すより電話とかメッセージの方が好きだよ?余計な情報を知らないまま話せるしね」
「能力ってのもちゃんとデメリットあるのね。そんな"いろいろな"弊害があるとは」
「含みのある言い方をするな!というかむしろ俺のやつは俺自身にメリットは一つもない!」
「そんな声を荒げないでよ?図書室は静かにでしょ?」
「こいつっっ!はぁ……もういいよ。で?日程は決まったんだよね?俺は何時にどこに行ったらいいのかな?」
危うく大脱線をするところだった。
樹もひさしぶりに何も警戒することなく話が出来るからか、どうでもいい話題で熱くなってしまった。
樹も奏も人間関係が壊れるかもしれない問題が控えているのだ。
そっちに重点を置かなければならない。
「今度の土曜日の正午よ。場所は陸上部の部室」
「なるほどね」
「あっ女子の方だから事前に連絡してちょうだい。迎えに行くわ」
「ムリムリムリムリ!女子の部室に侵入とか」
たとえ奏にと一緒に入ったとしてもはたから見れば奏が男を女子の部室に連れ込んでるようにしか見えないだろう。
どんな事情があれど写真などを取られて適当に流出させられれば、事件の結末はどうあれ樹の学生生活はしっかり終わりを迎えることは目に見えている。
「なんかさ、空き教室使うとか……」
「教師達に許可取るの多分大変ですよ?」
「もしかして土曜は部活やってないとか?」
「いえ、正午なのもちょうど休憩時間だからですね」
「終わった……!」
しかも休憩時間とか何かの合間に済ますような話ではない気もする。
もし話し合いの最中になにかあったらどうするのだろうか。
「藤崎、いろいろ大丈夫なんだよね?」
「まぁなんとかなるんじゃない?」
奏の身体は赤く光らない。
なぜこんなに自信があるのかわからないが決まってしまったものはもうどうしようもない。
まともな時間が取れないほど奏の部内で置かれてる状況はよくない風にも取れる。
「わかった。でも話し合いの場所で何か問題が起きたりしたときも本気でサポートしてもらうからね?クラスで浮くより部室に入り込む不審者のほうがやばい人間になるんだから」
「まかせて、そうならない様にがんばるわ」
「じゃあ土曜日に。学校着いたら連絡するよ」
「よろしくお願いします」
奏は深々と頭を下げた。
「俺はどっちにも肩入れしない。自分のことだけ信じてな」
「ふんっ!道具としてお願いってことよ!」
奏の周りが赤く光った。