第四話 朱に交われず
とても気分が重い。
私がいじめられた話なんだけどという始まりで楽しく聞ける未来が一切見えないからだ。
話し方的にちょっと喧嘩になり、相手がうそをついているのに悪者にされてるぐらいのものだと考えていた。
おそらくこれからされるのはそれのレベル100みたいな話だ。
「マジでもうすでに聞きたくないな……」
「じゃあまずなんですけど、私陸上部に入ってるんですよ。走ることが好きだったので」
「あぁもう俺は聞かされるのね」
「その陸上部に後輩にものすごく優しくしてくれた先輩がいるんです」
☆★☆★
奏は高校に入学してすぐにクラスメイト数人と陸上部に入部することにした。
中学の頃から走ることが好きで、どうせ部活に参加するなら陸上をやろうと決めていたからだ。
「こんにちは!二年の一ノ瀬仁美といいます。あなたたちが陸上部に体験入部に来た子たちですね。分からないことがあったら聞いてくださいね」
丁寧な口調なのに愛想がよく、周りにも人が集まっているためか、親しみやすさがある。
一目見ただけでもいい人だとわかるようなかわいらしい人だと思った。
仁美が丁寧に教えた甲斐あってか、体験入部に来た全員陸上部に入ることになった。
「大会目指して頑張るぞーっていう人もいますし、楽しく走りたいっていうひともいるから無理せず楽しくやりましょうね」
仁美は体験入部の時も本入部のときも繰り返し楽しくやろうと言っていた。
奏はそのゆるさも居心地がよく感じていた。
そして入部してから二か月がたったころ少し疑問に思うことが出てきた。
仁美のタイムがぐんぐん縮んでいるのだ。
陸上をやっているのだからタイムが縮んでいることに対して疑問はない。
ただフォームの変更や筋肉の付き方などで変わることが多い。
少なくとも奏と一緒に走っていた二か月間仁美の走りでここが変わったというところが見つからなかった。
ただ順調にタイムが短くなっているのである。
そこまでタイムや大会などに興味がない奏も速く走りたいという気持ちはあり、ある日仁美に直接聞くことにした。
「仁美先輩、どんどん速くなってますけどなにかコツでもあるんですか?」
「一年生の時に入部して、毎日走ってるから自然と速くなっているんじゃないかしら」
「日々の努力のたまものですか。私も頑張ります!」
「無理はしないでね?」
「はーい」
当たり障りのない会話をしてその場は終わってしまったが、奏はあまり納得していなかった。
不自然に足が速かったりすると特殊能力持ちかどうかのチェックが入るようになっているが、仁美の速さはチェックが入るほどではない。
逆にいうとギリギリそうならない様に調整している可能性も捨てきれない。
仁美先輩も特殊能力持ちだが体温を少し操れるぐらいだとよく話している。
「体温を自在にいじることで足って速くなるのかなぁ……?」
でも何か学べることがあるかもしれないし、去年からの仁美の記録や映像を部室から探すことにした。
楽しくやる部活とは言っても記録はしっかりとっていたようで、仁美の記録をいろいろ調べてみたが定期的に不思議じゃないぐらいにタイムが縮んでいる。
これだけ見ると一切違和感なく、普通に努力して速くなっているように見れる。
ただ奏はどこか引っかかりを感じ、しばらく仁美の周りで一緒に過ごすことで疑念を払しょくすることにした。
奏からしてもよくしてくれた先輩がなにか変なことをしてるなんて思いたくなかったのだ。
そして一か月がたった時、仁美の周りにいつもいる体験入部したときから一緒にいるクラスメイト達から呼び出された。
「ねぇ奏?仁美さんに変なちょっかい出すのやめてくれない?」
「え?」
クラスメイトの言葉には明確ないらだちが含まれていた。
「少し前から変に付きまとってるけど正直邪魔なの。いくら仁美さんのタイムが良くなったからって嫉妬で変なことしないでよね」
「え……っと、ちが……うーん」
奏としても確証があるわけじゃないことを、仁美を慕っているクラスメイトに教えるのは気が進まなかった。
「何も言い返せないなら私たちの邪魔しないでよね!仁美さんは優しくて可愛くて足も速い、次期部長候補なんだから」
「それがホントかどうかわからないのに……あっ」
「なにそれ。へーそういう感じなんだ。奏意外と性格悪いね」
「ちがっ……でも違和感はあって」
「もういいよ。じゃましないでね奏」
この日から仁美の取り巻きからの嫌がらせが始まった。
取り巻きといっても陸上部で仁美を嫌っている人など一人もおらず、奏対陸上部のような構図になってしまった。
部内で孤立してしまった奏はなんとか仁美に近づいて能力の話をしても体温操作といわれ、その話が原因で嫌がらせが増えたりとどうしようもないことになってしまっていた。
☆★☆★
「と、いうことで私が間違っていたのかどうか判別してほしいのよ」
「しっかりとしたいじめの話重いわぁ……」