第三話 協力したくないセリフもある
「あのねぇ、そんなすぐなんでもするとか言わない方がいいよ?」
赤く光らないってことは心の底からなんでもすると考えてるということだ。
そこまで捨て身の覚悟があるのは結構なことだが、逆にいうとそこまで追い詰められているような状況であるともいえる。
樹からするとそんな状況に首を突っ込むとまた厄介なのに目をつけられるだけの可能性が高い。
「先輩ならわかるでしょ?私が冗談で言ってないってこと」
「まぁそうだね……」
むしろ冗談で言っててくれた方が断り易かったからこそ困っているわけだが。
「そんなリスクのある提案をしてまでどうにかしたいことなのか?俺からすると厄介ごとには巻き込まれたくないし、うそが分かるだけでヤンキーとか普通に怖いんだよ……」
特殊能力持ちなんかよりも普通に暴力で訴えてくるヤンキーとかの方がよっぽど厄介だ。
しかも女がらみでサポートに出てくる男なんて八つ当たりをもろに食らう対象になるだろう。
「その辺は大丈夫よ。私とごたごたしてるのは先輩も知ってる人だと思うから」
「……はい?」
友達と呼べる人が基本的におらず、寮暮らしにもかかわらず周りの人間ともほとんど関わりがない。
となるとこれまで目をつけられてきたヤンキー集団のだれかに絞られる。
「どんどん協力なんかしたくなくなってきたね」
「そう、思ったよりクラスメイトとの関係性とかを気にするタイプだったのね」
「まぁ襲われ……ってクラスメイト?」
赤く光ってないということは本当にクラスメイトなのだろう。
クラスメイトとの関わりもう今となってはない樹にとってはヤンキーなんかよりはよっぽど気軽に首を突っ込むことが出来る。
すこしまだクラス替えのないクラスでまた少し孤立するぐらいだ。
「いや、冷静に考えたら俺に一切協力するメリットがないな。別に一人でいるからってクラスメイトと対立してるわけじゃないしね」
「だから私はなんでもするって言ってるのよ。どう?胸の大きさはちょっとあれだけど悪くないと思うけど?」
そういわれ樹は初めてしっかりとこの女の姿を見た。
本人の言う通り胸のサイズはお世辞にも大きいとは言えない。だからこそスラっとしていておそらく運動部であろう引き締まった肉体が協調されていると言える。
髪も栗色のショートカットで目つきが少し悪いが十分人気が出る見た目をしている。
そんなことよりもだ。
「いくら君自身に価値があろうと身売りをしてまで解決しなきゃいけないことに首を突っ込むのはいやだ」
「別にそんな難しい問題じゃないわよ。ただ私のせいでクラスに居づらくなったら、私が全部説明して責任とるってことよ」
いろいろ言われようが相変わらず樹には一切メリットがない。
デメリットを解消するのに協力すると言われてるだけだ。
「まだ渋ってるわね。それに加えて私を手に入れられるって言ってるの!ぴちぴちJKを所有できるだけでもうメリットは十分だしいいでしょ!」
「声をでかくするな!バカが!」
急いで周りを確認すると運がいい事に今日は図書室に人がいないようで、誰にも聞かれてなさそうだった。
「もうなんか引き下がらなさそうだし、いいよ。出来るだけ手伝うよ、出来るだけな」
「よかった!よかった……」
そんな女の顔は心底ほっとしたような顔をしていた。
俺に能力を使うようにいってくる人間で協力するとわかったとたんにほっとする人間は珍しい。
美由紀のように完全に相手の有無を言わせないために利用する目的が多いからだ。
この女は相手をつぶすというよりかは、自分を守るために能力を使いそうな気がした。
「そういえば君だれなんだ?手に入れるとか能力使う以前に名前を知らないんだよね」
「そういえば言ってなかったわね。藤崎奏。一年生で能力なしよ」
「俺は高宮樹。二年で特殊能力持ち。よろしく」
こういうのに協力し続けてるから目をつけられてる人数が増えるとは理解している。
でも今回はあまり悪い事が起きるような気はしなかった。
「じゃあとりあえず藤崎が巻き込まれてるらしいごたごたについて教えてくれないか?その話を聞いた時点で協力したくないと思ったら絶対に協力しないからね」
「私もフェアに判断してもらった方がいいわ。それでもなお私の方がダメだと思われたら私も諦めがつくわ」
そういう奏はどこか悲しそうな眼をしていた。
おそらく他の仲間にはフェアな判断をしてもらってなかったのだろう。
愛想が悪くてもともと友達が多くないタイプなのかもしれない。
「私から見た話だから完璧な情報じゃないことはしっかり頭に入れておいてね」
「悲しいことにこれから話題に上がるであろうクラスメイトに肩入れするほど仲良くないし、藤崎とも会ったばっかだ。気になることがあったらその都度聞くよ」
「私が不正だと疑ったらいじめが始まった話なんだけど」
「重すぎだろ!もう帰っていいかな」