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第十八話 意外に腹黒

「じゃあやっと苗字が分かった稲見さん。本人も来たことだしさっさと藤崎にどんな感情を抱いてるのか教えてくれないか?」

「奏でも別にいいけど?」

「藤崎に恨みでもあるのか?」

途中なにか聞こえた気がしたが今はそれどころではない。

さっさとこの件を終わらせないと、仁美はずっと帰りたそうにソワソワしている。


「……」

それでも由美は口を開かなかった。

よっぽど言いにくい何かがあるようだ。


「んーずっとこの様子なんだよね。むしろ藤崎の方から思い当たる節はないか?」

「全くないわね。むしろ私にいいきなり突っかかってきてそこから嫌がらせが始まっただけなんで逆に知りたいぐらいよ。そんな気に障ることしたかな?」

奏に嘘はない。

奏が知らないうちに何かをやらかしてしまったか、勝手に由美が何かを感じたのかになってしまった。

これでは本人が口を開かない限りはこれ以上わからなくなってしまった。


「マジでどれだけどす黒い感情を抱えてるんだ?黙ってる時間が長ければ長いほど怖いよ」

「ああああ!もう!」

話が進まないと感じ取ったのかついに仁美が爆発した。

少しうつむいている由美の頭をつかみ無理やり顔を上げさせた。


「なにをうだうだしてるの!さっさとしゃべりなさい。私の時間を無駄にしないで?」

「は、はい」

至近距離でがっつり崇拝している仁美に見つめられて、由美は顔を真っ赤にしながら返事をした。

強引な形にはなったが言質は取れた。

これでやっと次の段階に進むことが出来る。


「奏が本当にいやなんです」

「あーあ藤崎やっちゃったんだ」

「だからなんの心当たりがないんだって!しかもいやって言われてるのよ?慰めの言葉が一つぐらいあってもよくない?」

「藤崎に何かされたのか?」

「ちょっと!?」

定期的に奏から無駄な差し込みがあるがそれにかまっている暇はない。


「本当に勝手な負け惜しみ……みたいなものなんです」

「ほらぁ!やっぱり何もしてないじゃないですか」

「こいつにそんな負け惜しむ場所なんてなくないか?今日初めて話しただけだけど一ノ瀬にご執心なこと以外は一切何も負けてないと思うんだけど」

「え?めちゃくちゃに私のこと嫌いじゃない?この人。普通に嫌いなんだけど」

樹のことをガシガシ肘でつついている奴がいるがかまっている暇はない。


「そんなことはないです。奏は足も速くて、友達もいっぱいいて……」

「えっ!?」

「ん?なにか失礼なことを考えてない?」

「友達いたの!?」

「んー軽くしゃべるぐらいね。別に遊びに行くとか、いつも集まってるとかはないわね」

奏は思っていたよりも交友関係が広いみたいだ。

勝手に目つきが悪くて一人ぼっち系だと考えていた。


「さらに仁美様ともすぐに近い関係になって……」

「あれ、それじゃね?」

「全然仲良くなった覚えなんかないけどね」

「付きまとわれてただけで、さっさとどっかいけとしか思ってなかったけど」

思ってる本人以外は近い関係だとは思っていなかったみたいだ。

これも崇拝の結果盲目になってしまったのだろう。


「え?本当に勝手な負け惜しみなことあるの?こういうときって普通何か見せつけられたから嫉妬でとかそういうやつじゃないの?」

「入部時期は同じだし、足の速さも私の方が速かったですよ?練習もほどほどぐらいのやる気で」

「おいやっぱこいつに負け惜しむことなんてないって!普通にムカつく性格してるぞこいつ!」

友達が多いというのも本当にただ少し話すだけの関係かもしれない疑惑が生まれるほど由美からみた奏は美化された存在かもしれない。

それとも自己評価が低いから相対的に高くなっているのか。


「それで、嫌がらせに罪擦り付け?ちゃんとやることやってるわね」

「確かにそうじゃん。普通によくないことしてるよな。稲見さん」

「はい……すいません……」

由美は素直に奏の方をみて頭を下げた。


「まぁ今謝られたところで部活やめるところまできちゃったしもうどうでもいいわよ」

「とげとげしい言い方だけどその通りだな。なんか直接謝らせちゃったから責めてるみたいになってるけど、なんでこんな状況になるまで言わなかったんだ?」

素直に言わず長引いたから奏から連絡が来て流れで呼ぶことになったはずだ。


「……たんです」

「ん?」

「仁美様に嫌われたくなかったんです!一方的な感情で嫌がらせまでして、自分のやったことを全部奏がやったことにして、最低じゃないですか」

「おおぉ、全くもってその通りだ。よくわかり過ぎてるな」

「むしろそこまで自分で理解したうえでやってた方が怖いわね」

しかも本当に言わなければならない状況になるまでだんまりを決め込んでいた。


「じゃあ全部判明したわね。もう解散でいい?」

またしびれを切らした仁美が帰ろうと移動を始めた。


「おい。一ノ瀬、この信者どうすんの?結構思想ヤバめだぞ?」

「別にどうもしないわ。こんなのよくある女同士のギスギスでしょ?どうでもいいわ」

「仁美様……!」

さっきまで罪人のような浮かない顔していた由美も仁美の言葉を聞いて光を取り戻した。


「これより信者になったんじゃないのか?」

「もう沼ねもう。どんどん引き込まれて行くわ。先輩は騙されない様にしなさいよ?」

「俺はもうここ数日で人の汚い本性見まくったせいで普通に誰も信用できなそうだよ」


こうして数日にわたる女子陸上部騒動はいったん幕を閉じた。

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