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第十五話 不審者と信者

女子陸上の部室の中にあるロッカーに隠れる。

思春期真っ盛りの男子生徒なら喜んで受けるだろう。

でも実際に入っているとあまりいいものではなかった。


「あぁ暑い……しかも普通に匂いがキツイ……。もう最悪だ……」

部室のロッカーであり、別に更衣室の着替えロッカーというわけではない。

普通に掃除用具とかが入っているロッカーに無理やり詰め込まれている。

密閉された部室のさらに密閉された空間のせいで熱気がすごい。

さらに部室に入ったときから思っていた、女子特有の香水なのかなんなのか樹には見当がつかなかったが鼻につくにおいがロッカー内にこもっていてツライ。


「おい!ここ超キツイんだけど!しかも上の喚起の穴みたいなところから見える範囲が狭すぎて嘘ついてるか判別出来るか怪しい!」

「注文が多い!あんたのことを知ってたら私とまともに話してくれないかも知れないじゃない」

「まともに話さなくたって嘘ついてたらわかるし、問題ないだろ!」

呼び出したとはいえいつ来るかわからない状況でこんなつらい環境に閉じ込められていたら正誤判定以前に樹の頭がおかしくなりそうだった。


「でも扉の周辺なら隙間から確認できるでしょ?」

ロッカーの隙間からはしっかりと仁美の姿が確認できる。

まずい。このままだとならロッカーでいいわねと言われかねない。


「いや?どこにいるか全然わからん」

「ほんとに……?」

そういぶかしげな声を出すと仁美はいきなり制服の上を脱ぎ始めた。


「おいおいおいおいおい!なにしてるお前!もしかして俺を嵌めるために連れてきたのか!?」

「そんなハメるとか変態?」

「そっちの意味じゃねぇ!」

「でもよかったわ。しっかりドア前付近は見えてるようね」

嵌められた。

嵌められてハメられるかと思ったらきれいに嵌められた。

でもここであきらめるわけにはいかない。


「でもさ!ロッカーに隠れてるのがばれたら一ノ瀬の協力者じゃなくて変質者として扱われるよなこれ!何なら俺が盗撮してたみたいにならないか?」

「まぁこれから来る由美ちゃんが犯人じゃなかった時にとんでもない誤解を生むかもしれないわね」

「じゃあやっぱり出た方がいいよな。というか由美ちゃんっていうのかよそいつ」

少し前から話し方や人物像しか知らなかった人間の名前がついに発覚した。

そのとき部室の扉がノックされた


「すいません。仁美さ……ん。いますか」

その声を聞いて仁美はロッカーにもたれかかり小声で話しかけてきた。


「あら。時間切れみたいね。このタイミングで外に出たら何かやましいことをしてたように見えるもの。しっかり頼んだわよ?」

「マジで覚えとけよ……」

樹はもたれかかって見えないはずの仁美の憎たらしい笑みが目に浮かんだ。


「いるわ。なんなら私しかいないわ」

その声を聞いてゆっくりと扉を開け、由美が入ってきた。


「やっぱりその口調仁美様はそっちが本当のお姿なのですね」

「そうよ?でもあなたとやってることは変わらないでしょ?私と二人になったとたんに仁美様って呼び方変えてるのと一緒よ」

「それはそう……ですが!私が仁美様とお呼びするのと全員をだますのはレベルが違うのでは……?」

「変わらないわ。どっちも些細なことじゃない」

「でも……その……」

一切怯まず、堂々としている仁美に由美は押されて言葉が出なくなってきている。

ロッカーから盗み見ている樹からすると、ただ動画を見て裏切られた純粋な信者のように見える。

(これ、もしかして予想外れちゃったんじゃないか?俺莫大なリスク背負ってるんだけど!?)


「ここからが本題よ。あなたあの動画を投稿してたわけじゃないわよね?」

「仁美様、私がそんなことするとでも?こんなにも仁美様を慕っているのに……」

仁美がチラッとロッカーの方にアイコンタクトを送る。

由美の周りは赤く光らない。

ただ甘い。今の言い方だとたとえ動画を投稿していても嘘をついたことにはならないのだ。

仁美に疑問を問いかけ返し、慕っていると宣言しただけで動画を投稿したことに対して言及をしていない。

(気づいてくれ一ノ瀬。今のは回答じゃない!)

嘘をついていたら電話を掛けるというたった一つのルールしかないせいで回答の不備を伝える手段がない。


「なるほどね。あの動画が投稿されたのはもうしかたないと思ってるの。でもその理由とそのせいで別の人に被害が行くのは納得できないのよ」

「奏のことですか?」

「あら鋭いわね」

「だってやめると同時にあの動画ですよ?しかも仁美様を疑ってしばらく付きまとって……」

「でも奏ちゃんじゃないのよ。確実に」

「そっちの肩を持つんですね……」

「肩を持つとかじゃなく事実なのよ。納得がいかないなら犯人捜し手伝いなさい」

「わかりました……。手伝って目を覚まさせますよ!」

由美の周りが赤く光った。

樹は急いで仁美に電話をかけ、部室内に着信音が鳴り響いた。


「!?」

「樹!出なさい!確保!!!!」

声につられて樹がロッカーから飛び出した。


「きゃあああぁぁ!部室に変態が!!!!」

最悪な叫び声が響き渡った。

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