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第十話 お帰り下さい

『あーはいはい。体温操作じゃないですよ。これで満足?』『別に能力がどうあれ関係ないでしょ?それで大会で優勝とかそんなこと目指してるわけじゃないんだから』


こんな休みの日の話し合いの音声が動画サイトに流出するなんて考えてもいなかった。

そうなると嫌がらせもされ部活もやめることになった奏が最後に爆弾を残していったと考えるのが普通だ。

だから仁美も血相を変えて奏に会いに来たのだろう。


「ん?なんで藤崎が図書室にいるってわかったんだ?部活をやめたならもう帰ってる可能性だって高いよね?」

「私の交友関係舐めないでよね!適当に誰かに連絡しとけば学校の人程度ならどこに行ったかすぐわかるのよ」

「まぁ私もクラスの人に放課後図書室にいるっていってますしね」

学校のコミュニティというのは樹が想像してるよりもいろいろ筒抜けだったようだ。

かたや名前だけで顔すら知られてなかった人間もいたのに。


「それで?藤崎は録音してやっちゃったのか?普通にむかついたからさらしちゃったのか?」

「やってないですよそんなの。どうせやるなら退部なんかしないで、直接一ノ瀬仁美は猫被ってていじめられてたんです~って悲劇のヒロインみたいに騒ぎ立てますよ」

「どうせなら全力でやった方が得あるから、今回みたいな置き土産方式は選ばないよね」

「あんたらもいい性格してるわね。でも別にそれだけじゃやらない理由になってないわ」

普通だったらこんなの口先だけで何とでもいえる。

ただ樹は普通じゃないのだ。


「いやこれまでの藤崎に嘘はないよ。もちろん俺もそんなことやる理由はない。基本的に立ち会っただけで部外者だしね。そこまでやる義理も趣味もない」

「でも……」

「俺の能力と発言に疑問を持ち始めたらそれこそなにを信じるのかな?あんなに君が警戒してた能力だよ?」

「協力者としてのあなたの発言と敵としてのあなたの発言の信用度には差があるわ」

「じゃあもうだれも信用できないけど?」

「しかも普通に冤罪なのに信用できないとか言われてもこまりますよ」

それこそ勝手に疑われて弁明も信用できないと言われたらどうすることも出来なくなってしまう。

しかし外面を極限までよくしている仁美を明らかにつぶすために、この動画が投稿されていることは明白だ。

誰かが本性に気づいていたのかもしれない。


「心当たりはあるのか?」

「そんなへまするわけないでしょ。あんたみたいな変な能力持ってない限り適当にごまかして終わりよ」

「なるほどなぁ。じゃあドンマイってことで、犯人探すなり弁明するなり好きにやっててくれ」

「えっ!?」

「ん?もう関係ないんだからさっさと帰ってくれない?図書室で無駄な時間を過ごしてる暇なんてないんじゃないか?消火活動は早めに始めないと、とんでもないことになっちゃうぞ?」

仁美が行ったように学校のコミュニティはあまりにも狭い。

もうこうやって俺たちに突っかかっている間にものすごい速度で今の動画のQRコードが回されてる可能性も高い。

いくら外面がいいとはいえ、明らかに声が仁美のものである以上一度聴いたらいろいろな疑惑が生まれるだろう。


「くっ……!邪魔したわね!」

そう言い残し、仁美はイライラとした足取りで図書室から去っていった。


「いいの?このままほっといても」

「録音されてたのはまぁ可哀そうだけど、そもそも録音されて困るようなことを話してる方もよくないし、別に俺は誰かを助けるためにいるわけじゃない」

奏は明らかに被害者側ではあるが、ピンチになっている人を見ると多少は手を差し伸べたくなるみたいだ。


「でも私の時は助けてくれたじゃない?」

「いや最初は普通に付きまとわれるのが面倒だっただけなんだけどね。全然助けてあげたいとかじゃないね」

奏の時はほんの少しだけでも可哀そうという気持ちが生まれたが、今回は全く生まれない。

嘘つきの嘘がばれて困ってるなんて知ったこっちゃないのだ。


「こういうめんどくさいことに巻き込まれたときは帰りたいもんなんだけどね」

「別にいいんじゃない?毎日呼び出されるわけじゃないんでしょ?」

「帰ってから呼び出されると時間を無駄にした間があって本当にイライラするんだよね」

「そこも気の持ちようよ。賭け事みたいでいいじゃない。今日は連絡来る読みで図書室とか来ない読みで家とかね」

「帰っても居心地がいいわけじゃないんだよね。変なのに巻き込まれるよりマシってだけで」

周りの寮生がなにをしてるかも一切わからない孤立した寮生活を送っている樹からすると、寮で変なエンカウントをする方が面倒なのだ。


「でももう今日は帰っちゃうか。また来られても厄介だし、藤崎も変な冤罪をまた受けるのは面倒だろ?」

「そうね。もう抜けた部活でなにが起ころうとも関係ないし、先輩が帰るなら私もかえってゆっくりしようかな」

「じゃあまた」

「あ、また図書室来てもいいのね?」

「あーさよなら」

「ちょっと!?明日も普通に来るからね!?」

残念ながら明日もまたこのうるさいのが来るらしい。

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