第一話 いい事ばかりじゃない
何度目かになる初投稿です。
よろしくお願いいたします。
いつも通り授業が終わると同時に、高宮樹は図書室への移動を開始した。
教室から図書室までは階段を二階分降りて、少し歩いた先にある。特に図書室が好きというわけでも、本を読みたいわけでもなく、人が少なくゆっくりできる場所を探した結果流れ着いたのが学校の図書室だった。
「……どーも~」
ドアを開けると同時に中にいるかどうかもわからない人たちの邪魔にならない様に小さめの声で軽く挨拶をする。
今日は司書がいない日のせいか、誰からも挨拶を返されることなくいつも通り入り口から一番遠い座席にカバンを置いてスマホをいじりだす。
家に帰らず、学校に入れる限界までこの図書室で時間をつぶす。
これが高校に入ってから一年近く続いているルーティンである。
べつに家に帰れない理由があるわけではない。
ただ学校に残っていた方がなにかと便利なのだ。
図書室でだらだらし始めたのもつかの間、スピーカーからチャイムが流れた。
『高宮樹君。至急職員室に来るように』
「はぁ……こんな呼び出しがあるから素行が悪いと勘違いされるんだよなぁ」
樹は至福の図書室タイムを切り上げ、しぶしぶ職員室に向かった。
学校にいると便利な理由は今みたいに定期的に呼び出しがかかるからだ。
たとえもう学校にいなかったとしてもスマホに電話がかかってきて呼び戻されてしまう。
ならいっそ校内待機の方がいいだろうと呼び出し生活一か月目で気づいてから図書室に定住することにしている。
職員室に到着し、中に入るとそこにはあきらかに機嫌と素行の悪そう男。そしてニヤニヤと椅子に座って悪そうな男を見ている女教師が待っていた。
「お、遅いぞーうそ発見器。お前の仕事持ってきたぞー」
この呼び出したうえに人を道具扱いするやばい教師は坂下美由紀
出るところはしっかりと出ているくせに、全体としてみたらスラっとした容姿に胸のあたりまである茶髪。目鼻立ちも整っていて、中身が違えばよかったのにと思わざるを得ない。
悲しいことにこの残念な教師が樹が入学してから家族含め誰よりも会話量の多い人間になっている。
「俺からこんなことやりたいなんて言ったことないんで迷惑です」
「でもその力活かさないともったいないだろ?」
「活かさないで済むならそれでいいんですけどね」
ほとんど毎回行う定番の会話をしてると男が声を荒げた
「あぁ!?お前が例のうそ発見器か!?余計なこと言ったらどうなるかわかってんだろうなぁ!」
正直似たようなニュアンスで毎回圧をかけられている樹はいつからかスルーするようになっていた。
「俺やばいのに目をつけられるのとか本当に嫌なんで責任取ってくださいね?」
「まー、いざとなったら警察でも呼んで対処してくれ」
「無視してんじゃねぇ!!」
「じゃあさっさと始めるか。こっちだ」
美由紀が樹とヤンキーを連れて行ったのは職員室の隣にある狭い小部屋。
別に何か仕掛けがあるわけでもないが隔離するために場所を移したのは一応樹に気を使っているのかもしれない。
「じゃあ始めるぞー。お前が深夜に公園に騒いでいて迷惑だったという苦情が来ている。お前がやったことで間違いないな?」
美由紀がヤンキーを問い詰めながら隣に立っている樹をちらっと見る。
怖めの人と関わらずに生きていきたい樹からすれば帰りたさしかないが、呼ばれたからには仕事はしていきたい。
「それは俺じゃねぇよ!」
一目見てイライラしてることが分かるヤンキーが吐き捨てた。
その瞬間樹の目にはヤンキーの身体の周りがぼんやりと赤く光った。
「嘘ついてます」
「らしいぞ?どうせ今回ぐらいのことは注意で終わるんだ。嘘をつかずにさっさと白状してくれ」
「おいおい!俺のことは信用せずにそいつのことは信用すんのかよ!それって贔屓なんじゃないのかぁ!?」
ヤンキーが滅茶苦茶に樹を睨んでいるが、いまさら撤回するわけにはいかない。
嘘をついているのは本当のことなのだから。
「まぁ贔屓とかじゃなく実際嘘をついてるんだからさっさとしてくれないか?」
もう美由紀は確実にヤンキーを黒と決めたようで、耳を傾ける気はなさそうだった。
そんな態度にもうあきらめたのかヤンキーが白状した。
「あぁもうめんどくせぇ!俺もいたよ!でも俺一人で騒いでたわけじゃねぇからな!」
美由紀が樹の方をチラッと見る。
常識的に考えて一人で騒ぐわけはないだろうが一応チェックしたいようだ。
「嘘じゃないですよ」
「よしじゃあ、今後気を付けるように。解散!」
今回もなんの問題なく、うそ発見器としての仕事を終えた。
帰り際にヤンキーからの忠告がなければの話だが。
「……お前顔覚えたからな」
「俺いろんな人に顔覚えられてるっすね」
うそ発見器として呼ばれた後ほとんど全員に顔を覚えたと言われている。
今のところ何も起きてないのが救いだが、いつヤンキー達が集結して襲いに来るかわからない状況が着々と進行している。
「こんな能力ない方が絶対よかったなぁ……」