教会で
「あ、ありがとうございます……」
俺は路地裏で2人の不良から助けてくれた強くて優しい少女にそこから近い喫茶店?のような店に連れられて、窓際の席に腰を下ろして改めて彼女に感謝の言葉を告げた。
「楽にして大丈夫だよ、私はリティア。リティア・フレーン、貴方は?」
「え、えっと俺は橘 雪花……ありがとうございます、助けてくれた上にこんなところまで連れてきてもらって……」
俺が緊張しているのをわかったのか少女は優しく微笑みかけながらリティアと名乗った。
その笑顔は純粋無垢でこの世の穢れを全く知らないまるで天使のような汚れた心が浄化される感覚がする程だった。
一応彼女が名乗ったのだ、俺も名乗った方がいいだろうと思い自分の名前を彼女に明かした。
俺と彼女の名前の感じからしてやっぱりここは俺が元いた世界とは別の世界なのだろうか?
そんな事を考えているのリティアが口を開く。
「ううん、全然大丈夫だよ。それよりもちょっと話いいかな?」
彼女は俺の助けてくれた事やこの喫茶店に連れて来てくれた事に対しての感謝の言葉に謙遜しながらも俺に対して疑問を投げかける。
「貴方……ここら辺の人じゃないよね?どこから来たの?名前とかその今着てる服だとか、あんまり知らない感じだったから気になっちゃって」
リティアは少し食い入るように質問を飛ばしてきた。
どう説明しようか-
普通に別の世界から来たって言う?でもそんな言葉信じてくれるとは限らない……
それにこの世界で異世界人とバレればどんな扱いを受けるかわからない……
でもだからと言って助けてくれた人に嘘をつくような事をするのは気が引ける。
どうしたものか……
ここは……
「いやちょっと遠いところから来てて、この名前も服も俺の地元由来のものなんだ」
俺は半分嘘をつく事にした。
まぁある意味遠い場所だし、名前も服もちゃんとそこ由来だし……ある意味では嘘はついてないはずだ。
「そうなんだ。にしてもこんな国に来るなんてね」
リティアは俺の言葉に理解はしてくれたみたいだが何か意味深なセリフを吐いた。
「こんな国……?」
俺はその言葉の真相を確かめるべく聞き返す。
「この国、魔王がいるせいで魔族が活発だから……知らない?」
魔王!?異世界らしいといえば異世界らしいが……本当にそんな存在がいるのか!?
「は、はい……そんな状況だったんですね。
それでリティアさんは……」
「リティアでいいよ。それで?」
俺は彼女に聞きたいことがあって尋ねようとしたところ呼び方について指摘された。
会って間もない人に呼び捨て……したことのない事に戸惑いながらも言葉を続けた。
「リティア……さんは魔族への自己防衛のために剣を持ってるんですね」
やっぱり会ったばっかりの女の子に対してタメ口を聞くのはちょっとまだ心の準備が……
それと彼女の美貌で薄れていたが彼女は白い鞘の長物の剣を持っており今はすぐそばの壁に立て掛けている。
「うーんまだ敬語……まぁそれもあるんだけどね……」
リティアは何か言い淀んだ感じて話す。
「笑わない……?」
その後リティアは少し不安そうな顔をして尋ねてきた。
笑う?そんな恩人に対して失礼な事をするほど俺は腐ってはいない。
「う、うん」
そうは思いながらも言葉に出来ずにただ頷くことしか出来なかった。
「私ね今は冒険者やってるけどいつか強くてかっこよくてみんなが憧れるような勇者になりたいんだ」
リティアは恥ずかしがるように顔を赤らめて俺に打ち明けた。
勇者……魔王がいるんだからそれを倒すための勇者だとかがいてもおかしくないか。
でも強くてかっこよくて憧れるような勇者になる……か。
「凄いなぁ……」
俺は一言、言葉が漏れた。
「えっ?」
俺の言葉が聞こえたリティアは何かおかしな事が聞こえたかのように反応して俺をじっと見た。
「えっ……いや、自分の夢をしっかり持つなんて俺には出来ないからリティアさんが凄いなって」
「笑わないの?」
リティアの驚くような表情に俺は何か間違えた事でも言ったのかと不安になりながらも彼女の言葉に返事を出す。
「笑わないよ、だってさっき俺を助けた時のリティアさんは強くてかっこよかった!
だからリティアさんのその夢は少なくとも俺にとっては笑うような夢じゃないよ」
リティアが何故不安になって驚いているのかはわからない、でもあの時俺を助けてくれたのは事実だから……俺にとっては勇者みたいなものだ。
「そ、そっか……うん、うん!ありがとう!!
なんか元気出た!じゃあこれから依頼行ってくるから!!」
リティアは顔を赤くし戸惑いを見せたが元気が出たのかその後席から勢いよく立ち上がり依頼へ行こうとする。
まずい、今見ず知らずの場所で1人だけになるのは嫌だ……!
正直心細い、何をすればいいのかわからない!だから俺は……
「──待って!」
リティアにティルリンと教えられたこの街にある教会……俺はそこにリティアと共に来ていた。
「ここが教会、冒険者はここでよく依頼に行く前にここで祈るの」
教会前でリティアにそう教わってから俺達は教会の中に入って行った。
そこは白く輝く広大な空間、手前に並ぶ多くの木材の長椅子その先にある教壇。
いかにも神秘そうなこの空間はいるだけで心の何かが変わるような気がする程に美しいものだった。
そして俺達は教壇まで真っ直ぐと歩く。
昼間からなのか教会の長椅子には何人かのお年寄りがバラバラに座り目を閉じ両手を合わせて祈りを捧げていた。
そんな人達を見ながらも教壇に着く。
これから何をするのかとリティアを方を見るとリティアはキョロキョロと周りを見渡して誰かを探している様子だった。
ちょっと小動物みたいで可愛い……
「やぁリティアさん。よくぞ来られましたね」
リティアを見るのに夢中になってた俺は背後から近づいてきていた男に声をかけられるまで気が付かなかった。
俺は肩を跳ね上がらせながら声のした背後を向く、その男は高身長で全身を黒を基調として白色の十字架を表してるような模様が両胸にあるロングコート……多分この世界では神聖だと思われる服装をしている白髪赤目が特徴の青年だった。
「あっいた!」
リティアは俺の背後にいる男の声を聞くや否や少し明るめに男のいる方に顔を向けた。
「今日は……お連れの方がいるんですね?」
男は俺へ目線を移しジロジロと俺の全身を見ていた。
「はい。この人は今日の私の依頼を手伝ってくれるユウビさんです」
そんな男に対してリティアは俺の紹介をしてくれた。
そう、今日俺はリティアの依頼の手伝いをさせてもらうことになった。
……と言っても荷物持ちだが。
「そうですか。初めましてユウビさん、私はここで牧師をしてるアガーテメン・ブラスボと言う者です。
……ところでリティアさん、今日はどこまで行くのですか?」
アガーテメンと名乗った男は俺に軽くお辞儀をしながら自己紹介をした後、リティアの方を向いて今日の行き先を尋ねた。
「実はね、今日は西の洞窟に行ってゴブリン退治なんです!」
そんなアガーテメンにリティアは少し自信ありげに誇らしそうに今日の依頼について話した。
「ゴブリン退治!?貴方が!!?」
依頼のことを聞くとアガーテメンは飛び跳ねるくらい驚いた。
そんなに驚くような事なのか?リティアは冒険者だったはず、ならこういった依頼は幾つか受けているんじゃないか?
「失礼ですね、ちゃんとギルドには許可取ってます。祈り……お願いします」
「……はい。わかりました、それでは祈りの姿勢をとってください」
アガーテメンに指示を出されたが祈りの姿勢など俺にはわからない、とりあえずリティアのを見て同じようにしておけばいいか。
そう思いリティアを見る。
祈りの姿勢……といってもそこまで難しくはないみたいで胸の前で両手を組んで目を閉じているだけだった。
俺もリティアを真似て祈りの姿勢をとった。
「──天におりし我らの主よ。」
すると後ろでアガーテメンが何かを唱え出した、どうやらこれが祈りの言葉なのだろう。
それからアガーテメンの祈りは数分続く、ずっと同じ姿勢をとってるせいか脚や手が痺れてきているのがわかった。
「どうかこの者らに祝福が有らんことを──
はい、終わりました。もう楽にして大丈夫ですよ」
そして祈りが終わったのかアガーテメンは楽にするように言ってくれた。
その言葉に甘えるように俺は少し姿勢を崩す。
「ふぅ……」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
リティアがアガーテメンに祈りに対しての感謝を行う、俺は彼女と同じように感謝した。
「いえ、これも私の仕事なので。
それでは2人とも、お気をつけて」
そうして俺達はアガーテメンに見送られながら教会を後にした。
「はいっこれでもう大丈夫ですね!
それじゃあゴブリン退治に行くとしましょうか!」
リティアは少し浮かれたようにしながら俺達がこれから行くであろう先を指差したのだ。