少年のはじまり
──運命の出逢いなんて信じてはいなかった
「……大丈夫?」
ただ目の前の俺に手を差し伸べてくれているこの人に逢うまでは……
「あ〜〜クソッ!また負けた!!」
締め切った薄暗い部屋でカタカタとゲーム機の操作音と1人の少年の苛立ちによる独り言が響く。
俺は橘 雪花
現在高校に行く事を拒否しているいわゆる引きこもりというものだ。
そんな俺の日常はゲームやらアニメ三昧で楽しく暮らしている。
ゲームの方の実力はまぁ……はっきり言って弱い方だ。
親はそんな俺に対してなにも言ってこない。
だってあの人達の関心は一流大学に通っている兄貴の方に向いており俺の事なんて一切期待なんかしていない。
まぁ仕方ないと言えばそうなんだけどな。
「……あれ?」
いつものようにゲームの合間に行動の源、炭酸飲料を飲もうと缶へ手を伸ばして飲もうとする……しかし中身は既に空だった。
「マジかぁぁ、取りに行くか……」
ゲームモニターの時計を見る、時間は大体午前の10時ほど世間では今日は平日な為親や兄は今は家にはいない。
誰とも会わないであろう今のうちに取りに行こうとして俺は立ち上がり部屋の扉に手をかけそのまま開けた。
「まぶっ……」
扉を開けた俺を迎えたのは扉の真ん前にある窓から差し込む日光だった。
日光を浴びるなんていつぶりだろうか……そんな事を考えながら階段を使い2階から1階へと降りる。
見慣れた階段、見慣れた廊下そして見慣れた扉を開けるとそこは普段家族のみんなが集まって家族団欒を過ごしている居間に出た。
その家族団欒に俺は入らない、まぁ当然と言えば当然か……
誰もいない今を見て少しばかり寂しい気持ちが湧き出たが俺はすぐに居間の奥の部屋キッチンにある冷蔵庫へと歩き出す。
冷蔵庫を開けると俺が普段愛飲している複数本の炭酸飲料が目に入る。
「おっこれこれ!」
そう独り言を吐きながら3本くらい持ち冷蔵庫の扉を閉めそしてきた時と同じ様に居間を通って自分の部屋へと戻ろう歩き出した。
──ガチャッ!
居間を出ようとした瞬間、扉が開き男が居間へと入ってきた。
誰だ?
突如として入ってきた男と目が合う。
その男の特徴は大体50代半ばくらいで髪は白髪混じりでボサボサ、少し開いた口からは欠けたり抜けて無くなってる歯が見えて眼鏡をかけクリーム色でボロボロのコートを羽織った老人だった。
「留守のはずだろなんでいるんだよ」
男がボソッと口にした小言が耳に入る。
その言葉から察するにこの男の正体は空き巣だろう。
普段から俺の家に盗みに入ろうとして気を窺っていて全員が外出した今いざ入ったら俺がいた……という事なんだろう。
だけど彼の背丈は俺よりも低い、体格だってしわしわで細い手を見ればわかるようにそんなに良くはない。
普段運動はしてはいないが若さのある俺ならなんとかなるだろうか?
そして俺が空き巣を捕まえたってみんなに言ったら……褒めてくれるのかな。
しかしそんな俺の希望は男の一手で揺らいだ。
彼はコートの内側から折り畳み式ナイフを取り出して刃を出しこちらへと向けてきたのだ。
「おいおまえ!大人しくしてろ!!」
ナイフを向けられた俺の足はガタガタと震え出す。
体ひとつの戦いならいざ知らず、相手が凶器を持っているのだとすれば話は変わってくる。
そんなの武器を持っている方が優勢に決まっているしそんな相手に向かっていったら下手したら殺される。
そんな恐怖が全身を襲い俺は腰を抜かして持っていた缶を落とし床に座り込んでしまった。
「あ、あ、やだ……」
「おい!大人しくいてろって言っただろ!!」
腰を抜かした俺に男は強い口調でキレながらこちらへと向かってくる。
死にたくない……
男の目は血走っており何をしてくるかなんてわからない最悪の場合ここで俺を殺してくるかもしれない。
死ぬのは嫌だ、怖い。
俺は手を後ろへと動かして後退して男と距離を離そうとする。
しかしそれが更に男を怒らせる結果になる。
「大人しくしてろって言ってるだろうがっ!!」
そう怒鳴りながら男は足早にこちらに近づいてくる。
しかし男の目は俺しか捉えられなかったのか……足元に転がってる缶に気付かずに踏んでしまう。
缶を踏んだ空き巣の男はそのまま前方に……俺に向かって倒れてくる。
その時の俺の目には全てがゆっくり動いているように見えた。
男が何が起こったのにかわからずに驚いている顔、踏まれた缶の中身が勢いよくあたりの床にばら撒かれるところ。
そして男の手に握りしめられていたナイフが俺に向かって迫ってきているところも……。
──ガッッ!グサッ!
そうして男は俺を下敷きにするように倒れた。
「──ッッ!!」
男の体に下敷きにされている腕や足に激痛が走りあまりの痛さに叫び声すら出ずに絶句する……多分両手足の骨が折れてる。
それだけならよかった……
腹部の1箇所が熱いと感じとる、俺は恐る恐るその感覚がする箇所に目を向けた。
そこで俺が見たものは男が持っていたナイフが俺の腹部に深く刺さっている光景だった。
「あっ……あぁ……」
刺された!?痛い!熱い!
死んじゃう?嫌だ、まだ死にたくない!!
「お、俺はそんなつもりじゃ!!」
俺に跨っていた男は激しく動揺し立ち上がる。その時にナイフも一緒に男は俺の腹部から引き抜いてしまった。
引き抜いた瞬間に赤い血が先程までナイフの刺さっていた箇所から物凄い勢いで溢れ出てくる。
「ち、ちげぇ!!俺は……殺す気はなかったんだぁぁぁぁ!!!!」
血が溢れているのを見た男はそう叫びながら走り出してその場から逃げ去り俺だけがその場に取り残されたのだ。
どんどんと流れ出る血、手足が折れている為身動きが取れず通報も出来ずにただ血が流れていくのを見ているだけしか出来ない。
手足が痺れていき、手足の色が段々と青白くなっていく。
脈も弱く速くなっていき意識も次第に遠退く……
俺……ここで死ぬのか……
まだやりたい事、やらなきゃいけない事だっていっぱいある。
あぁでも、もうダメみたいだ……意識がもう消える。
家族に何かしてあげたかった、最後まで俺は役に立たない男で認められるような子供じゃなくてごめんなs……
そうして彼の天笠 勇火の命はこの世から消え去った。
そう"この世から"だ。
「──い、──ちゃん!」
声が聞こえてくる。
「おい、ニィちゃん!!」
荒々しい男の人の声……さっきまでの空き巣とは明らかに違う声だ。
暗い……いや、俺が目を瞑っているだけか。
ここは……あの世なのだろうか?そう思いながら目を開いた。
目を開くと眩い光と共に現代とは異なる風景が広がっていたのだ。
視界の先には石造りを基調としたまるで中世を思わせるような建物が立ち並んでいる街並みが広がっていた。
俺がいたのは道の真ん中で道ゆく見慣れない格好をした人達が通る際ジロジロを見られて動揺と羞恥の感情が現れる。
「おい大丈夫か?」
そして目の前には俺を気遣ってくれてる男の人がいた。
ガタイの良いスキンヘッドにちょび髭を生やしたイカつい顔が特徴的な男の人だった。
いかつい見た目とは裏腹に俺に対して俺に対して少し砕けたような口調で親切に聞いてくれる。
「は、はい……だ、だ、だいじょうぶでs……」
彼の言葉に対して返答しようとするも口がうまく動かない……それもそうだ、ここ最近人と話したことのない俺が初めて会った人となんて会話できるはずがなかったのだ。
「あ、ありがとうございました……」
俺は彼に感謝の言葉を述べると足早に立ち去っていく。
ごめんなさい親切なおじさん……俺を心配して声をかけてくれたというのに。
後悔と共に俺はすぐ近くの細くて暗い路地へと入っていく。
特に理由はない、強いていうならここは人も少なそうだし薄暗くて安心出来そうというわりとどうでもいい理由だ。
とりあえずそんな場所で俺は自分の置かれている状況を整理した。
俺はたしか空き巣にナイフで……その部分を思い出そうとして頭痛が発生する。
あのことは俺にとってのトラウマになっているのだろうと思いそこはひとまず置いておくとして。
俺は多分死んだ……なのに今もこうして生きている……そして周りには今まで自分では見た事のないような街並み……
これはまさか……まさかぁ??
「異世界転生ってやつかぁぁ!!??」
アニメやら小説でよう見られるシチュレーション!そのシチュが今現在の俺に起こっているということになる!!
そして俺が異世界転生したのだとしたら俺には特別な力があり!
それで無双したり!!
女の子にめっちゃモテたりする!!!
そんな明るい未来が俺の目の前に広がっている!!
「や、やめてください……!」
興奮している俺の耳に女の人の助けを求める声が聞こえた!
さっそく俺の助けを求める人が現れたのか!?
こうしちゃいられない!
さっそく助けに行かないと!!
俺は声のした方へと走る。
「や、やめてください……」
「いいから金目のモン寄越せや!」
「痛い目に遭ってもしらねぇぜ??」
辿り着いたのはさっきとは少し離れた場所の路地裏の通路、表通りが近いのか陽の光が少し差して来ているような場所だった。
そこで見たのは1人の女の人に対して男2人が寄って恐喝している場面だった。
「ま、待て!……へぇ……はぁ……」
そこに息を切らせながら俺が到着した。
ここ最近運動していないためか少し走っただけで息切れを起こすまでになってしまった。
しかしもう大丈夫だ!
俺にはチート能力があるはず!!
それさえ使えば、こんな現代の不良みたいな奴等楽勝だ!!
──
「なんだったんだコイツ?」
「さぁ……ってかさっきの女に逃げられたな」
倒れている俺をよそに不良2人は会話をしている。
そうだ、俺はこの2人に手も足も出ずに負けてボコボコにされた。
おかしいだろ、なんで俺だけのチート能力が出てこないんだ?
こういった場面ではチート能力を使って楽勝で勝つのがお決まりだろ!?
「まぁいいや、コイツボコしてスッキリしようぜ」
「あぁ、そうだな!」
金髪ショートの不良がもう片割れの黒髪ロングの不良に対してそう提案し黒髪ロングもそれを快諾した。
2人が俺に迫ってくる……また痛めつけられる……なんで!?なんで俺がこんな目に……
「あなた達!やめなさい!!」
その時だった俺から見て不良達のいるその更に奥から声が聞こえた。
「なんだまた新しいやつが来たのか」
「まっ邪魔されんのも面倒だし、まずはお前からだ!」
そういって不良達はその声の主に攻撃を仕掛けに行った。
俺から見たら不良2人が邪魔でその声の主は見えなかったが、それでも……
「「ぐわっっ!!」」
なんと不良2人があっという間に倒されたのだ……
「クソ……行くぞ!」
「お、覚えていやがれ!!」
不良2人はすぐさま立ち上がるとその場から逃走、2人を倒した人物も追わずに俺の方へと歩いてきていた。
そしてそこで俺は彼女の姿を初めて見た。
ブロンズでツヤのある綺麗な髪、瞳はアクアマリンのように澄み通った青。
見た目的には俺と同じくらいの歳だろうがその顔は見た瞬間
──綺麗でとても可愛い。
としか言えないほどに感動すら覚えるレベルだったのだ。
「あ、ありがとうございます」
──運命の出逢いなんて信じてはいなかった
「……大丈夫?」
ただ目の前の俺に手を差し伸べてくれているこの人に逢うまでは……
美しくて可愛らしい姿に俺の事を心配してくれるような天使のように優しい人……
俺はすぐに彼女に恋に堕ちたのだ。