7.話をしよう
9月1日
彼女の姿が見えなくなってもう二週間が経った。僕から彼女がいなくなってからというもの、体に関してはすこぶる調子が良かった。やはり彼女に生命力を吸われていたのは確かなのだろう。
しかし、心に関しては埋めようのない喪失感があった。彼女と会う前の僕に戻っただけのはずなのに、前にはなかった寂しさを感じてしまっていた。
彼女との会話は、僕にとってそれだけ失い難いものになっていたのだ。
そして、彼女の居場所についても見当がついていた。僕から離れた彼女は、次の憑代が必要だったはずなのだ。憑代を考えた時1番最初に思い浮かんだのは、僕があの日付けていたお面だった。
あの日以降僕はあの面にほとんど触っていない。あの面をつけたら、彼女と会話ができるかもしれない。でも、僕はそれがちょっと怖かった。彼女から真実を伝えられた時、僕はそれを受け入れられるか不安だったのだ。
このまま僕一人で悩んだところで進まなそうだし、トキとケイには相談してみることにした。
まずトキに電話をかけた。
「おゆか!なんや急にどしたん?」
「いや、例の幽霊の件でな。」
「あぁそりゃあ大変そうやな。とは言っても俺はレイちゃんに会ったことは無いんやし、レイちゃんの事はおゆが一番分かってるんとちゃうか?」
確かに二人にはレイちゃんの存在はよく分からないだろう。相談しても困らせてしまうだけかもしれない。
「それもそうだな。いきなり電話して悪かったな。ありがとう。」
「なんかあったら今度はおゆの慰め会開いたるから頑張りや〜」
トキにちょっと勇気づけられた僕は、彼女と話してみることにした。
僕は恐る恐るお面を手に取り、頭に掛けるようにつけた。すると、すぐに声がした。
「久しぶり、おゆ。」
「ああ……久しぶり。……話を、しよう。僕と君の今後に関わる、大事な話を。」
僕は自分の心をどうにか落ち着けながら言った。