6.花火大会 Alternative perspective
8月15日
天気がいい。彼は昼ご飯の買い物の後、今晩開催される花火大会のポスターを見ている。
「今日の花火大会に行こうと思う。前に約束してたしな。」
「やったー!実はそろそろかなって思ってたんだよね。」
結構前から楽しみにしていた花火大会。近くで見るのは今日が初めてだ。これでも彼には感謝している。
夜になって会場に向かっていく。彼は甚平にお面までつけて浮かれているのがよくわかる。人が多く動きにくそうな彼は、屋台で焼きそばを買っていた。とてもおいしそうだ。
「この辺ならそれなりに見えそうだな。そういえば今更だけど幽霊の視点は僕と同じと考えていいのか?」
「同じにもできるし、ちょっと俯瞰視点でも見れるよ。」
彼の視点で見るのはプライバシー的によくないかな、とか思ってあまり見ていないが、考えてみれば取り憑いてる時点でそんなものとっくに侵しまくっているとも思う。
「そろそろ始まるかな。」
「いやまだ30分くらいあるよ。」
「そ、そっかあ。」
ちょっと気持ちが逸りすぎたかもしれない。彼に私の感情が察されるのは結構恥ずかしい。
しばらくして、開始時刻になった。
ぴゅーというかわいい音とともに夜空へ打ち上がった花火は、ぱぁっと空一面に広がり、直後にぼんっという音が響く。私は声も出さずに花火に夢中になっていた。
クライマックスになって花火がどんどん打ちあがる。あまりの迫力に私は圧倒されていた。
「たまや〜」
彼が恥ずかしがりながら呟いた。
「たまや〜!」
私も併せて大きく叫んだ。どうせ彼以外には聞こえないのだし。
花火が終わって、彼は人混みに流されて会場を後にする。私は花火大会の余韻を楽しみながら今日はなんて最高の日だろうと思っていた。
「おかしいな。ちょっと休ませてくれ。」
彼が突然自販機にもたれかかったかと思うと、そのままずり落ちて倒れてしまった。
「おゆ!どうしたの!しっかりして!」
彼は返事をしなかった。どうして、彼に何があったのか、私には一つだけ思い当たる節があった。いやしかし、今はまず私にできることをすべきだと思った。
私はまず彼の身体の主導権を握った。彼の意識が完全に失われた時にしかできない荒業だが、それで救急車を呼んだ。
そして……きっと彼が倒れた原因は、私が彼から無意識に生命力を吸い過ぎてしまったからだろう。だから私は、彼の身体から出ることにした。でないとこのままでは彼の命を奪ってしまいかねない。
救急車のサイレンが聞こえる。きっとこれで彼は大丈夫だろう。
そして私は━━にその身を移した。