5.疑惑
8月16日
目を覚ますとそこは病院だった。あれから僕は救急車で運ばれたらしい。通報者は不明との事だが、きっと幽霊がやってくれたのだと勝手に思っている。
しかし、病院で幽霊に話しかけても返事がない。というか鏡を見ても彼女が見えない。彼女はどこへ行ってしまったのだろう。
僕の状態は、夏バテと栄養失調と熱中症が軽度ながら合わさった為との事だったので、点滴を打つと体調はすぐ改善した。
帰宅した僕は幽霊に声をかけてみたが、やはり返事は無かった。いったい何が起こっているのか、僕には分からなかった。
次の日、トキとケイが家を訪ねてきた。昨日の事を少し話しただけなのに、心配して来てくれた。
「本当に大丈夫なのか?体調管理を怠るなんておゆらしくないぜ。」
ケイがそう言うのもわかる。僕は割と体調には気を遣っていたからだ。
「慢心かな。普段と特に変わったことは無いんだがちょっとつかれてたからな。」
「なるほどな、だからあんまり連絡がなかったんや。彼女でも出来たんかと思っとったわ。」
トキはもう完全に立ち直ってそうだなと思う。少なくとも僕にそういう軽口が叩けるなら大丈夫だろう。
「彼女じゃないが、かわいい女の幽霊とは知り合ったよ。」
「幽霊ってあの時話したネットロアのか?お前疲れてたんじゃなくて憑かれてたのかよ。笑えねぇぜ。」
なんならあの日トキ経由で憑かれたんだけどそれは黙っておこう。
「そうなんだ。でも昨日意識失ってから幽霊の姿がないんだ。」
「幽霊にも姿があるんか?」
「なんか靄みたいな感じだけどな。会話も出来たんだが、今は全くなんだ。」
「俺にはお前が疲れから幻覚を見ていたとしか思えないぜ。あの噂もあくまでフィクションだと思ってたんだぜ?」
ケイの言うことも尤もだ。だが僕は彼女と過ごした日々が幻とは思えなかった。
「そういやそれ、何や?」
トキが指さしたのはあのお面だった。
「あぁ、祭りで買ったんだ。これは幽霊も気に入ってたな。」
「おゆは今幽霊って呼んでるけど、なんかあだ名は無いんか?レイちゃんとかどうよ。」
「レイちゃんか……特に呼んでなかったけど悪くないな。それでいこう。」
その後は彼女と僕が過ごした3ヶ月弱にあったことを二人に話した。するとケイが衝撃的なことを言った。
「おゆ、お前レイちゃんに生命力みたいなのを吸われてたんじゃないか?」
絶句した。僕は反論出来なかった。ケイはこういう時本当に鋭いことを言う。今回もそれで全ての辻褄が合うのだ。そう思うと急に彼女が恐ろしいモノのように感じてしまった。
もしそうなのだとしたら、彼女は僕をどんな風に思っていたのだろう。