2.名前
「気にしないでと言われてもな……」
僕は現実離れした現状を一旦飲み込んだ。どうやら僕は何かに憑かれたらしい。
「おいお前、もう少し詳しく説明してくれませんか。」
上手に出るか下手に出るか迷って変な言葉使いになってしまった。
「……ちょうどいい物件が居たから、ちょっと借りようかなって。」
物件て。勝手に人の体に居候されても困るんだが。
「それ僕に何かデメリットは無いのか?」
「……」
こいつ黙秘しやがった。それからしばらくは話しかけても口を聞いてくれなくなった。
6月18日
久しぶりに声をかけてみた。最近は忙しくて疲れてこいつのことも忘れかけていた。
「そういや名前とか聞いてなかったけど、いやそもそも名前とかあるのか?」
「ない。でも私が取り憑いた人には幽霊って呼ばれる。」
すぐに返事が来てびっくりした。というかやっぱり幽霊なのかよ。……ん?何か幽霊って最近聞いた気がするな。
「あなたはおゆ?最初に会った時そう呼ばれてたけど。」
「あぁそれでいい。というかいつから憑いてたんだよ。」
「トキって呼ばれてた人に憑いてたけど、おゆの方が丈夫そうだったから。」
「トキの奴……あの時憑かれてたのか。」
それで思い出した。あの日この幽霊の話をしてたじゃないか。
「お前、ネットロアになってんぞ。【怨念幽霊】とか呼ばれてる。」
「じゃあそれ私のフルネームにしよ。」
【怨念幽霊】、奇しくも頭文字はおゆである。
「そういえば幽霊、いつまで僕に居るんだ?」
「いや~居心地いいからもうしばらくお世話になりたいかな。話し相手くらいにはなれるからよろしく頼むよ。」
「僕には話し相手すら居ないみたいな物言いをするなよ。話し相手くらいなら居るぞ。」
「話し相手くらいしか居ないじゃん。」
「……よーしわかった降参だ。だから落ち着いてその鋭利な言葉のナイフをしまってくれないか。」
ちょっと生意気な所もあるが、幽霊との会話はそれなりに楽しくて、僕も満更ではないのだった。声かわいいし。