第88話
とりあえず説教された。
といっても怒鳴られたりとかそういうことではなく、懇々と何が悪かったのか、何故自分を頼らなかったのか、自分を大事にしろということを言われ続けたというか……。
その間も私に怪我がないか入念にチェックをし『無事で良かった』『もっと早くに着いていれば、すまない』『もう大丈夫だ』って抱きしめていっぱいバードキスくれて……。
あっ、甘ぁぁぁあああああい!!
惚れてまうやろ! 惚れてるけどな!
うう、アドルフさんがスパダリすぎて辛い。
推せる……。推しまくるよ……!!
やはりこれはぬいを作るべき? 布教しちゃう?
いやでもこんな素敵なアドルフさんをみんなに知ってもらいたいけどぬいを抱きしめたりかっこいいって憧れられちゃうのはこう……こう、私だけの推しが認知されて嬉しいと同時に悔しいとかこの人は私のなんだぞっていう面倒くさい古参みたいな台詞が出てしまいそうだ……!!
(いや違う、これは……独占欲、だよね)
私は前世で推し活をするにあたって、同じ推しを押す人ウェルカムっていうタイプだった。
人によっては同じ推しを推すのはいやだ、自分だけでいい! って人もいたわけだけど……私はみんなと『推しは素晴らしい!!』って騒ぎたいタイプだったから。
だからぬいとかを作ってアドルフさんの素晴らしさを世に広めたいし、推しがみんなに崇められて幸せになるならそうしたいと心の底から思っている。
でも同時に、アドルフさんっていう一人の男性を、ずっと……ずーっと独り占めしたいなって思ってしまうのだ。
(……アドルフさんが、他の人を好きになったらちゃんと身を引こうって思ってるのに)
私より素晴らしい女性は世の中にきっと、大勢いるのだ。
それこそボンキュッボンなスタイル抜群女性だとか、頭がいいとか、金持ちとか、体に傷がないとか……そんな感じでね?
いずれも私には持ち合わせていないものだから。
残念ながら。残念ながら!!
どれか一つでも持ち合わせていたら良かったのにね! 転生特典はまだか!!
いやアドルフさんと契約結婚からのホンモノな関係になれたんだからそれが転生特典なんですねあざーっす!!
「聞いているのか、イリステラ」
「聞いてます……」
どうやらここはヘルマンが抑えておいた隠れ家らしく、町の外れにある小さな一軒家だ。
王都からは少し離れているらしく、閑静な佇まいで、普段は使われていないのかうっすら埃っぽい。
しっかりと入り口を施錠して二階の窓を開けて換気をしたから空気そのものはもうそれほどではないけど、椅子とかクッションは埃っぽいからってアドルフさんったら私を膝抱っこしてずーっと甘やかすんだもの。
そりゃ真っ赤になった顔を見られたくなくて俯くってもんでしょうよう!
なんだよこの羞恥プレイ、最高かよありがとうございますご褒美……!!
照れくさくてアドルフさんの胸に顔を埋める。
さっき動いたせいか少しだけ汗の匂いがした。でもアドルフさんの匂いだ。
なんか余計に恥ずかしいことしてるなって思ったけど、安心する。
「……お前はいとも簡単に、俺を置いていってしまうからな」
「えっ?」
「なんでもない」
なんでそんなことを言うんだろう。
私はそんなことをしていないよ、アドルフさんを幸せにしたいだけだよって言いたかったけど、口を開く前に彼から熱烈な口づけを受けてしまって私は何も言えずに終わってしまったのだった。




