第87話
そこからはなんていうかもう、圧倒的だった。
圧倒っていうかもう蹂躙? アドルフさんもそうなんだけどさ、第五部隊のメンツがさ……張り切っちゃってさ……。
「イリステラは! 第五部隊の大事な隊員なんだからね!!」
カレンの言葉に思わずジーンとしちゃったよね……。
敵を踏みつけながら言っているあたりがなんとも悪役っぽく見えたことは内緒だ。
みんなもカレンの言葉に「おう!」とか言ってくれちゃうからさあ、泣かせてくれるじゃないですかー!!
「当然のことだな。……だが、後できっちり話を聞かせてもらうからな」
「ひゃい」
アドルフさんが薄く笑う。
あっ、怒ってらっしゃる。これは……これは怒ってらっしゃる!!
アドルフさんのことだから怒鳴ったり何時間も延々と説教……なんてことは起こりえないけれど、大事な推しに心配をかけてしまったなあと反省しっぱなしだ。
最終的にはこうして助けに来てもらっちゃってるし。
推しのために行動をしたはずが、推しに迷惑をかけてしまうとは……なんたる不覚!!
「だがまあ、おかげでこうして尻尾を捕まえることができた」
なんとも複雑そうな顔で、遅れて登場したのはスリコフ将軍だった。
彼の視線は、両親に向けられている。とても複雑そうだ。
そりゃそうか、他国からの客人をこうして捕まえて利用していたんだから。
そしてその言動から、亡命者たちをいいように使っていた人たちとも関係を疑うべきだろうって……もしかしたら、前々から疑われていたのかもしれないけど。
自国の貴族、それも品行方正で人道的な行いをする侯爵という人を疑って捜査することはきっと難しかったに違いない。
民衆の目っていうのは、案外馬鹿にできないから何事にも大義名分が必要なんだってうちの腹黒国王が言ってた。
スリコフ将軍の視線は、母親に向けられた。
侯爵は、何も言わない。ただ、表情の抜け落ちた様子のまま、夫人を庇うように立っている。
夫人は……この騒ぎにも、息子の登場にも、相変わらず無反応だ。
「後は任せていいんだな」
アドルフさんが静かに問う。
スリコフ将軍はただ、無言で頷いた。
私はよくわからないままに、いいようにヘルマンに使われちゃったなと思いながらしょげかえる。
結局何から何まで、今回の件に関しては足を引っ張りっぱなしだったんじゃないか? 私。
「帰還する」
短いアドルフさんの指示に、第五部隊のみんなが敬礼を返す。
私もそうしようとして、体がふわりと浮くのを感じて「ひゃっ!?」と情けない声を上げてしまった。
「あ、あどるふさん!?」
「しっかり捕まっていろ。イリステラは俺に少し付き合ってもらうからな。……マヌエラ、ヘルマンへの報告は任せた」
「承知いたしました」
私を横抱きにしているのに、なんの負担も感じていないかのように軽々と抱いたまま歩いて行くアドルフさんを誰も止めない。
去り際に、スリコフ将軍だけが呆れたような顔を見せていたけれど……私は照れていいやら叱られることに怯えるべきなのか、落ち込むべきなのか……感情のジェットコースターに困惑しながらそれでも私を抱くアドルフさんの温もりに、そっと抱きつく腕に力を入れたのだった。




