第82話
推し活って何かっていうと、推しを応援することだ。
自分の命の活力となってくれる推しに対して、その推しが元気で恙なくいてくれたらとても嬉しいことで、そうなってくれるよう応援するのだ。
そのためにならお金だってつぎ込むし、ファンレターだって書いただろう。
それが前世の、ゲームに対しての話ならね!
(でもこの世界でできる推し活……それはアドルフさんの死ぬ運命を覆すこと、幸せになってもらうこと)
私を差し出せって、ゲオルグ陛下が言ったなら……アドルフさんは、それに対して決して首を縦に振らないだろう。
私に対しての情、義理、一度でも懐に入れたら守り通すという彼の性格。
そんなところが大好きだ。
でもそれって推しに無理をさせるってことだよね。
それはだめだ。
かといって私が勝手に『推しのためだから!』と出て行ってヘルマンを通じ交渉、なんてのもいけないことだ。
だって私はアドルフさんを推しているのと同時に、夫婦なのだから。
夫婦ってのは相手のためにって勝手に一方的な気持ちを押しつけちゃいけないと思うんだよ、私はね。
有り様は様々だと思うし、それも一つの形ってこと。
決して選択権を委ねて楽をしたいわけではない。
「……アドルフさんは、どう思いますか」
「お前はどうしたい」
ヘルマンからの手紙を挟んで、アドルフさんと向かい合わせに座る私は今まで感じたことがないほど重い空気に顔が上げられずにいる。
アドルフさんが望むなら、私はなんだってできる。
命を捨てろって言われたら困るけど……そもそもそんなこと言う人じゃないからそこは心配していない。
それに優しい人だから、自分を犠牲にしてみんなを助けろとかそんなことも言わないはずだ。
「……どうするのが部隊のみんなを無事に故国に戻せる方法か、思いつかなくて」
「そうじゃない」
「でも」
「お前は、どうしたい」
問う声は静かだ。
なのに凄く圧を感じるのはどうしてだろう。
(まるで、出会った時みたい)
あの時のアドルフさんは私が伴侶として名指しをしたから戸惑いと、それから少しの不満があって不機嫌だったけど。
今は、何に対して、だろう。
(いやわかってる。いろんな人の勝手な思惑に対してと、私がそれに対して従うべきだという雰囲気を持っているから。アドルフさんに、それを了承してもらおうっていうずるさを見抜かれてる……)
話合うべきだ、なんて言いながら私はアドルフさんに『行ってほしい』と言われたいんだと思う。
そうすべきだとわかっていても踏ん切りがつかない私の背中を押してほしいって、どこかで思っているのだ。
でも同時に『行くな』と言ってほしいとも思っている。
守るからって、言われたいと思って……。
「お前は俺に言わせたいのか?」
「アドルフさん」
ふっと雰囲気が和らいで、アドルフさんが薄く笑った。
感情のないその笑みの理由がわからなくて、私は戸惑う。
こんなアドルフさんは初めてだ。
「ならイリステラ、わかっているだろう。俺はお前を手放す気はない。この国に留まる気もない。故国を捨ててもいいし、もう一度戦争が起きたって構わない」
「アドルフさん!」
「お前が全てを捨てられるなら、俺が連れ出してやる」
くらっとした。
その甘さも、誘惑も、恐ろしいほどかっこいい。
言われている内容が重要だってわかってるんだけど頭に入らないくらいかっこいい!!
ああ、推しってやつぁ!
最高じゃないか……!!
「とりあえずお前が考えていそうなことはわかった。今は何もするな、ヘルマンもお前のことも、俺と第五部隊を残すことも考えていないはずだ」
「は、はい」
「ただ協力という形で当面、暴走に関してこちら主体で手伝わされることはあるだろう。その間にこの国に亡命した神官たちと接触できればまた話が変わるかもしれない」
「……そうですね。それに気になるのはやはり、スリコフ将軍の母親という女性ですか。聖女だという触れ込みでしたが」
「そうだな」
アドルフさんも私の言葉に頷く。
きっとこちらの上層部も気付いているはずだ。
私が暴走した人間を治癒したことで、これまで〝聖女〟を名乗っていたはずのスリコフ将軍の母親がそうではない可能性しかないことに。
(ああ、重ね重ね続編のストーリーを知らないことがこんなに面倒だなんて!)




