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転生者の私は〝推し活〟するため聖女になりました!  作者: 玉響なつめ
第八章 うるわしの せいじょさま

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幕間 細くて、か弱い

今回もスリコフ将軍視点。

 王が突きつけた難題、それに取り組んだ聖女イリステラ。

 夫であるアドルフ・ミュラーの眼光が厳しいものになっていたがこちらも怯むことは許されなかった。

 義務で番ったとは思えないほどにミュラー夫妻は互いを慈しんでいるように、俺の目には見える。

 だがこれまで聞いた話を総合すると、聖女という存在を繋ぎ止めるために、あるいは職務を放棄させないために国家として兵士と紐付けたように思う。

 幾人も同じように強制的に結婚させられた中での、何分の一か……何百分の、何千分の一かもしれない確率での出会いだっただけかもしれないが。


「将軍」


「……大丈夫です」


 連れてきた女たちのうち一人が、アドルフ・ミュラーの知人であることは調査済みだ。

 それも含めてこの場に連れてきたのは、確かに意地の悪い話であったと俺も思う。

 だが感情がそこに左右されるのか、治癒とはなんなのかをこの目で確かめるためには必要なことだったのだ。


 エミリアという女は、アドルフ・ミュラーの幼馴染みという立場に驕って無礼を働き、国外追放の刑とされた……夫と共に。

 だが慣れない異国の地とこの戦争での心を疲弊し続けたせいなのか、夫婦共にリンドーンにたどり着いてからの生活は苦しかったようであると報告書には記載されていた。

 彼女は心を弱らせてろくに働けず、夫であるダンという男も足に障害があるため仕事を休みがちになるという悪循環。

 救済団体を頼ってその日を食いつなぐ生活を続けていたようだが、ある日彼女は道行く男性に飛びかかり、捕まった。


 その際に獣化をし始めたことから、それなりの被害が出てしまったこともあって収監され、その被害による賠償金を払うために今は夫の方も仕事に出ている。


(心が弱ると獣化を繰り返すようになり、そして廃人のようになり、そうなると次に獣化したら最後)


 あとは暴走するだけだということは、把握している。

 そしてその廃人のような姿には、俺も見覚えがある。

 自分の母親の、それだ。


 そしてイリステラが治癒にあたって彼女たちが徐々に理性を取り戻し、ハッとした様子を見せたことで〝正しく〟治癒できる聖女という存在を俺たちは目の当たりにしたのだ。

 しかしながら負担が大きいというような内容も事実であったのか、三人を治癒したところでイリステラは倒れてしまった。


 思わず手を差し伸べようとした俺の手を、強い力でアドルフ・ミュラーが撥ね除ける。


「妻に触れるな」


 低く唸るようなそんな声を、俺は戦場ですら聞いたことがない。

 正気に戻るやいなや何かを喚き続けるエミリアという女性に一瞥もくれることなく、自身の妻を抱き上げたアドルフ・ミュラーという男を俺はただなんとも言えない気持ちで見ていた。


 本当に、聖女は……不幸せな存在なのだろうか。

 そして母は聖女ではないのだろう、きっと。


(だとしたら、俺たちは何を知らずにいて、何を憎んでいたんだ)


 行き場のない感情に、ぐっと拳を握る。

 母と同じように意に沿わない関係を強いられているのであれば、イリステラという女性をこの国で保護しても良いと思っていた。

 だが少なくともあの男は彼女を大切に思っているようだし、彼女もまた言葉ではそう言っていた。


 どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。

 母は『番った騎士の言葉に逆らうことは恐ろしくてできなかった。愛していると思い込まねばやっていけなかった』と語った……そう報告書にはあった。


(あの二人は、どっちだ?)


 俺の目には思い合っている夫婦にしか見えない。

 だが俺の目が、そうあってほしいと願うばかりに曇っているのかもしれないと思うと恐ろしい。


 そしておそらく今回の治癒を目の当たりにした上層部は、彼女を、聖女をどうにかして手に入れようと画策するのではないか。

 再び戦争が起きてしまわないか、俺はただ去って行くアドルフ・ミュラーの背を黙って見送るしかできなかった。


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