第8話
アドルフさんが、静かにため息を吐いた。
きっと私の言った内容を今、頭の中で精査しているんだろう。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか……って私はアドルフさんに嘘は言っていないけどね!
さすがにいっぺんに話すのは無理があるって思うので、とりあえず事実だけを述べたけど……それでも情報量としてはかなり多いと思うんだ!
「そうですね、いろいろと思うところはあるかと思いますが……もしよろしければ、アドルフさんのことを治癒しても?」
「……? 俺は先の戦いで怪我をしていない」
「いえ。獣化なさいましたね? それも耐久時間、ぎりぎりまで」
ハッとした顔をするアドルフさん。
そう、私は言った。
聖女は獣化によって疲弊した〝魂を〟治癒するのだ。
つまり、その人の魂がどれだけ疲弊しているのか視ることもできる、といえる。
実際のところ能力の高い聖女はそれができるらしくて、そのせいで心を病んでしまうこともあるって聞いたことがあるけど……そういう意味での私は、能力面においてからっきしである。
言っただろう、底辺聖女だと!
(くっそう、転生チートが何故私にはないんだ!!)
ゲームシステム的にチートキャラがいないからだと思うけど、それにしたって転生して知識があっても底辺中の底辺に生まれるとか転生の意味あったのかと地団駄踏んだことが一体何度あったことか。
それでも回復能力を持って生まれたことで、アドルフさんの妻の座を一年とはいえゲットしたんだから、努力はしてみるもんである。
ちなみになんで第五部隊が箱推しかっていうと、私がまだ下級神官だった頃に死を覚悟した時に獣化したアドルフさんが現われて敵を一掃。
まずそこで前世の推しを目にしたことで感激して惚れる。うん推せる。
で、遅れて登場した第五部隊の人たちで獣化しないで活動する人たちが、私たち負傷兵を抱えて下がらせてくれたのだ。
その時、私たちはとんでもないくらい汚かったと思う。
死にかけで、何日もお風呂入ってなくて、血と泥に塗れてガリッガリで。
そんな私たちを助けて、彼らは言ったのだ。
『間に合って良かった。見てな、隊長と俺らがいたら戦況なんざひっくり返してやるからさ!』
『生きていてくださって本当に良かったです。後は、おまかせくださいね』
『こっから先は引き受けた!』
口々にそう言って笑ってくれたあの人たちの笑顔を、私は忘れない。
そんなん惚れるしかないやろー!! ってね。
推すしかないじゃん。
ゲームの中では時々主人公が会話していたキャラだったかもしれないんだけど、あの時の私は衰弱していてそれどころじゃなかった。
でもその声を、励ましてくれる声を忘れない。
推すしかないでしょ、誰だよ死神部隊とか呼んで嫌った聖女。
そこに正座だ正座。
いや嘘ですゴメンナサイ。
魂の衰弱とかそういうのを見る方法を知ってから、彼らを癒すことは自分を衰弱させることでもあると知ってしまった。
やっぱり何の情もないのに『聖女になりまァす!!』なんて言えないよね。
ただ、私はアドルフさん推しだし第五部隊推しなんで躊躇わないですけど。何か。
「実際に体感してみて、私が聖女として部隊のために使える人間かどうか判断していただければと思います」
「お前は……――いや、いい。わかった。俺はどうすればいい?」
「そのまま座っていていただいて、肩に触れても?」
「……ああ」
ぎゃー推しに! 触っちゃうよ!!
許可をもらったんでこれは違法ではありません。
肩触るだけで違法じゃないって突っ込まれそうだけど、推しに触るんだぞ? 推しだぞ?
あ、やば髪の毛綺麗……背後に回ったから顔が見れないのは寂しいけどやっばぁ鼻血出ないように気合い入れないとこれはあかん。
そうっと、そうっとね。
推しに触れるんだから神聖なものに触れる気持ちでいかないと!
気張るんだよ私!!




