第79話
「……アドルフさん」
私は確認するように、アドルフさんを見る。
彼は少し考えているようだ。
でも、正直なところを言えば――私は治療したいなと、思う。
(別にエミリアさんのことは嫌いってワケじゃないし)
私の推しにとって大事な友人の奥さんっていう人なら、治療するだけの価値はあるかなと思うのだ。
それでも原作ゲームでは推しを傷つける要因の一つだったというか最大の理由だったことを思えば何故嫌いに思えないのかは謎なんだけども。
(……彼女の事情を、聞いちゃったからかなあ)
同情心からなのか、それとも自分がこの治癒の能力に目覚めなければ彼女と同じようになっていたかもしれないという気持ちからなのか。
それは自分でもよくわからない。
それに、エミリアさんはアドルフさんを嫌いだとか自分に罪滅ぼしをすべきだって何度もぶつかっていったのは……そこに、複雑な感情があったんじゃないかなと同じ女として思う。
それを口にするのは憚られたし、エミリアさんに対してもとても失礼な行為だと思うので決して言わないけどね!
だってもしそうだったとしてもしなくても、幸せになった私から何かを言われても嬉しくないと思うのよ。
とんだ上から目線で同情なんかごめんこうむるって思われても可笑しくないでしょう?
「最低限」
「えっ」
「最低限、彼女たちが自己を取り戻し、自立した暮らしができる程度に回復させるのだとして、イリステラの負担はどの程度だ?」
「そう、ですねえ」
うーんと私は少しだけ考える。
治癒の力が衰えた、というのはあくまで私の体が死の淵を彷徨い、生還したからだ。
今もあの時の鉱石毒によるダメージから復活した私の内臓は必死に再生からの活動をしているわけで……これは本当にアニータ様と聖女長様のおかげだよね、うん。
まあ彼女たちからも無理はするなって散々言われているので、絶対に無理はしない。
ちらりとぼうっと床を見つめる女性たちに視線を向ける。
「三人治療した後は、三日ほどお休みをいただきたいくらいでしょうか」
生々しい話、アドルフさんと同衾できるなら一日で回復しそうな気もするけど。
私たちの関係がとても良いものだと自負しているからこその自信だけど、こんな遠方の地で、しかも監視付きの状態ならそれも望めないっていうか無理ぃ!
推しの色気溢れるお姿なんてどこの馬の骨にも欠片でも見せたくないんだよおおおお!!
アドルフさんもそのことはわかってくれていると思うし、ヘラルトもある程度の詳細はゲオルグ陛下から聞いているだろうから無理強いはしてこないはずだ。
だけど、あちらの王様含め重鎮の方々を納得させるにはこれしかない。
「……無理だと思った段階で止める」
「はい、ありがとうございます」
私は席を立ち、エミリアさんの前を素通りして別の女性の前に立つ。
まだ理性があるのか、それとも本能的な何かなのか……その人は、ぼんやりと私を見上げて『たすけて』とギリギリ聞こえるくらい小さな声で呟いた。
「あなたのために、祈りを――」
いつもただアドルフさんの手を握って集中するだけの治癒だけど、今はパフォーマンスも必要だよな?
そう思って口にしたその言葉は、なんとなく妙な気持ちにさせてなんだろうと自分に問う。
(ああそっか)
前世、よく駅前で声かけてきた怪しげなキャッチの言葉じゃん!
どこまでも残念な聖女、それがイリステラ……




