第75話
「とりあえず亡命者たちと直接対話は無理なようだが、彼らを保護しているという人物、そしてその保護団体のようなところを支援している貴族との面談となる。……今日、これからな」
表向きは他に日程が調整付かずとかそんなところなんだろうけれど、本音は私たちが連動して何か対応をとれないようにってところだろう。
まあ実際に探られて困る腹はないので、対応策も何もないんだけども……。
なんて過去にやらかしたという事実はあるけれど、亡命者たちを虐げていたかと問われるとそれはわからない。
むしろリンドーンとオーベルージュの間で誘拐問題もあるし、その後洗脳したのでは? という話に発展すると正直、水掛け論になっていくのだと思われる。
私としては、戦争も終わったんだし事実関係を確認の上で合意して賠償金やらなにやらでとにかく家族や故国との縁を戻してあげたらいいのにって感じだ。
いやまあそこで両国共に捕虜だったり亡命者だったりがスパイじゃないって保証がないからこそ慎重になるだろうし、それを利用してあれこれ……って駆け引きもあるんだろうということはわかっているが私には関係ないって言っちゃだめかね? だめだな!
(そうよ、それが回り回ってアドルフさんの迷惑になったら困るんだから、ここはヘルマンに頑張ってもらわないとね!)
侍女さんたちがいる手前、素でお互いに話すことは難しい。
つまり、本音でどう思っているかも語れない。
とりあえずこれから人と会うことになったこと、そしてそれに私たちが同席するという決まっていることを話す分には問題ないけれど、それについてどう思っているかなどは変に勘ぐられないように気を遣わなきゃいけないってことだ。
(めんどくさいよねえ)
まあ私やアドルフさんはおそらくその場で『質問されたことにだけ答える』形になるのだろう。
にっこりと聖女スマイルを浮かべてみせれば、ヘルマンが私を見てにやりと笑った。
「オマエが俺の妻にならなくて本当に良かったと、心の底から思っているよ」
「あら奇遇ですわね、ヘルマン様。私もそのように思っております」
「アドルフ、この減らず口の聖女と夫婦げんかしたときにはいつでも俺の家に逃げてこい。怒れる女傑からは逃げるが勝ちだ」
「……覚えておこう。だが、そんなことにはならない」
「ほお、のろけか。いやはや、結婚は墓場だと先人も言っていたというのにお前たちは例外のようで何よりだ」
クククと喉を鳴らして楽しげに笑う男の姿は、本当に私たちに対して心を開いている友人のように見える。
まあ七割くらいは本当に私たち相手で少しほっとしている面もあるのだろう。
この敵国……ではなくなったけど、決して味方とも言えないよその国の王城内で、心を許せる相手は部下だけ。
勿論、そういったことに対しても訓練は積んでいるし何よりも敬愛する国王のために働いているヘルマンの心がそれで折れるとは思わないけれど……それでも、少しくらい息抜きしたいことだってあるだろう。
そして残り三割は、リンドーンの侍女さんたちを通して『平民出身の隊長と聖女に対して、オーベルージュの貴族が気安く話をするくらい関係性を築いている』っていうポーズでもある。
(果たして、この先で誰と会談することになるのか、だなあ)
ヘルマンがそんな風に印象操作を少しずつしているってことは、相当めんどくさいってことなんだろうなと私は思いつつそっとため息を漏らした。
「イリステラは、聖女とかそんなのは関係なく俺を想ってくれる、最高の妻だからな」
「おやおや、お熱いことで! これは冷たい飲み物をもらうべきだったかな」
侍女さんたちのまなざしが生暖かいものになった気がするけど、私はアドルフさんの微笑みを毎秒脳内に刻みつけるのだった。
推し、尊い。




