第72話
(うーん、この館にいるとどうしても推し活ができない)
いや何言ってんだオマエって思われそうだが、私にとって深刻な事態である。
だってアドルフさんのお世話を一つも! そう、一つもできないのだよ!!
以前の時と違って明確に「これとこれを回避しよう」なんて目標があるわけではないので、緻密な計画を……なんてできるわけでもない。
となれば私にとって目先の推し活の方が優先ってこと。
それが日頃の家事や仕事のサポートだったわけだけども、足止めを食らっているこの状況でそれもままならないとか私にとってストレスじゃん、ストレスじゃん……大事なことだから二回言いますよ!
(……ゲオルグ陛下からの密命を片付けるのに、役立てると思ったんだけどなあ)
亡命した人間の行く末。
この国で『亡命者』と呼ばれる中には誘拐された人も含まれているだろうし、そこをわざわざオープンにしたいわけじゃなくて、ただ彼らが望むなら祖国に戻れるよう手助けするための第一歩。
言うてそこの辺についてはやっぱり国同士の駆け引きとか交渉が含まれるので、最悪第一部隊に丸投げなんですけど。
ただ、スリコフ将軍の母親が本当に聖女であったかどうかっていう点については判別が可能だ。
要するに単純明快、治癒の魔力かどうかってハナシ。
私だけでは信頼に足らないというなら、ヒルデもいるわけだしね!
(一応、前情報としてリンドーン王国側は〝聖女〟を治癒能力がある人間としてしか認識していない。神官たちも治癒を使うが聖女はそれ以上の能力を秘めていると認識している)
まあそれはある意味で正しいんだけども。
ただ、魂を治癒する……というか、獣化によって魂の疲弊、そこから暴走に至ることについてまではまだ知られていないようだ。
さすがにこれが広く知られるとオーベルージュでも大騒ぎになってパニックが起きかねないからね、上の人たちも取り扱いにはかなり気を遣っていたのが功を奏したよう。
「どうした? ぼんやりしているな」
「いえ……私たちはこのままここに足止めされっぱなしなのかなあと思って」
まあそんな考えもアドルフさんの肩を揉みながら何ですけどね!
推しに今できることがこんなことくらいしかないだなんて……クッ、泣けるぜえ……。
しかし私の心の嘆きなんぞ欠片も優しい推しに見せてはならない。
アドルフさんは私の反応に小さく笑みを浮かべて「もういい、ありがとう」とお礼を……はー、うちの推しいつまで経っても礼儀正しい! 素敵!!
「このまま戻るようなら陛下からまたブチブチ言われるのかと思うと気が重いっていうか」
「そうでもないぞ」
「え?」
「近いうちに俺たちは王城に呼ばれるようだ。第一部隊からの連絡が今来た」
「えっ、いつの間に!」
私たち二人っきりでずっとマッサージしていたのに!?
アドルフさんは笑って「隊長格同士の秘密の方法があるんだ」とだけ教えてくれたけど……えええなにそれ、すっごい便利じゃない!?
(ああ、でも隊長格だけにあって私にすら秘密にしているってことは……)
別に私は自分が〝特別〟な存在ではないことは自覚しているけれど、アドルフさんの公私共にパートナーとなっている自覚はある。
それに加えて王家の秘密……ってほどではないけど、聖女としての正しい役割も細かいところまで知っている人間だ。
そんな私に『隊長格同士の秘密の方法がある』ってことを明かすだけで精一杯ってところにいろいろなものを感じてしまうのは私だけだろうか?
ちなみにアドルフさんの笑みが少しだけ悪い感じの笑みだったことに胸がキュンってしたことをここにご報告申し上げます。




