第71話
あれから、スリコフ将軍と会えない。
いや別に会いたくはないんだけど。
アドルフさんと日中会うことも邪魔されなくなったし、私としてはそれで何もかもが終わって帰国! で全然構わないんだけどもそうはいかないんだよなあ。
ゲオルグ陛下から言われているミッションをこなさないとあの王様に嫌味たっぷり言われるに違いないし、私としても〝続編〟については知識がまるっとないから、できる限りアドルフさんの幸せな人生計画に影をさすようなものがあるなら今のうちにその芽を摘んでおきたいわけですよ、ええ、推しの幸せ邪魔されてたまるもんですか!
なんだよこっちは必死で死亡フラグへし折って『幸せだ』って言ってもらえるようにまでなって毎日推しの笑顔を見ては尊いって幸せのお裾分けを推しから直接していただける栄誉の中で生きているのに!
邪魔しないでもらえます!?
「どうしたイリステラ。食事が口に合わないのか? 元から小食なお前がそんなでは痩せてしまうぞ」
「あ、いえ……このサラダ美味しいなって! ドレッシングの味を探っていたんですよ」
「……ならいいが」
この国に来てからも、私たち第五部隊は揃って食事をする。
とはいえ、男女別にテーブルは分けられているし、立ち話だってあまりしていると品がないと思われそうなので控えるような形なので〝これまでと同じ〟とは言えないけれど。
こちらの国での宗教について詳しくないとはいえ、さすがに立ち話くらい……とは思うけど、それでも私たちはあくまで隣国からの使節団。
一挙手一投足、見られていると思って行動しなければ。
そう思うといろいろと不自由極まりない中で、みんなよく我慢してくれていると思う。
あちらとしても不満を少しでも解消させつつ自分たちの望むように〝観察〟するため、こうして一堂に会する機会を与えているってところじゃないかな。
「そういえばフランツやヒューゴーがおとなしいのって大丈夫なんですか」
「……そろそろ限界だな。ヒューゴーをイリステラのそばにつけて監督してもらうつもりだったんだが、まさか男女別がここまで厳しいとは思っていなかった」
「まあ半分くらいは誇張表現で私たちの様子を窺っているんでしょうけど」
「だがそれもスリコフのおかげで緩和された。いや、そろそろ見ていても変化がないと思ったのか」
「どうでしょう」
アドルフさんと私に下されている、亡命者たちの様子を探るという命令は今のところ果たせていない。
というか外出許可も出てないしね。
王城にいる第一部隊の様子もわからないままだし、方向性をスリコフ将軍から聞いたところでそれが正しいのかどうかもわからない。
要するに、私たちはまだ何もできていないのだ。
(だからといって無理に動いたら余計に監視の目が厳しくなりそうだしな……)
とりあえずわかっているのは、こちらの国でも獣化による暴走者が出始めてそれに対応するのが難しくなっている……ってところだろうか?
暴走が目立てば目立つほど、うちの国からの亡命者は肩身が狭くなることだろう。
そして当人とその家族は排除対象として周囲から疎遠にされるだろうし、そうなれば国としては『不当な扱いを受けた人々を人道的に迎え入れた』と言っているのに差別対象にはできないし隔離なんてしちゃったらそれこそ周辺諸国から叩かれるっていう事態になるわけだし?
(とりあえずまずはとっかかりになりそうなのがスリコフ将軍の母親ってところだけど、この家の侍女さんたちの話だけじゃあなんにもわかんなかったんだよなあ)
酷い目に遭わされた女性がこの国に逃げ延びて貴族の男性に見初められたシンデレラストーリーだったってことで、侍女さんやこの国の人たちからは美談的に語られているってことだけはわかった。
でもその割に、その母親はこの豪奢な館に暮らしておらず、スリコフ将軍の義父とも違う場所で暮らしているみたいだってのが気になるところ。
「難しいですねえ、どうしましょうか」
「……そうだな」
いっそ何も起きずに帰って嫌味を言われるくらいでもいいんじゃないかって、正直思い始めるのだった。




