第7話
息をするのも忘れてジッと見つめてくるアドルフさんの姿に思わずドキッとしたのは内緒だ。
冷静に、そう冷静になるのよ私。
(いやーん男前ェェ!)
はっ、いけないいけない見惚れている場合ではなかった。
でも見惚れずにはいられない!
さすがは推し……。
「聖女には回復能力を細やかに使える技能と、知識を必要とします。そのために下級神官は経験が足りず、また平民出身者の中でも貧困層が多いため……教養の点からして中流階級の方々に劣るのが現状です」
そう、スキルチェックの後で回復能力を持つ人間は教会に集められるので、そこで読み書きは最低限教えられる。
けどまあ、最低限だ。
そこからのし上がるには勉強をしなくちゃいけないわけだけど……そんな余裕もないまま戦場に駆り出されて、回復回復また回復と酷使される日々なのだ。
宿舎にはほぼ寝に帰る状態、まさしくブラックな職場環境なのが下級神官ね!
そこに比べると中級神官……つまりまあ、中流階級の方々から上の人ってのは、元からある程度の教養があって、その上、各家庭から教会に対する寄進などが行われるような存在だ。
そのためいきなり戦場ってこともなく、割と安全地帯に配置されるか、高位貴族のところに控える神官として配属されるのだ。
要は金と身分が物を言う。
だから下級神官が聖女になることは稀なのだ。
能力を使いすぎて出涸らしになって辞めるか、死ぬか。
あとはあまり例を見ないけど、結婚を機に退職が認められるか。
ほとんど結婚したとしても働かされるけど。
私?
私は前世の知識と、第五部隊とアドルフさんへの想いがあったからね!
死ぬ気で勉強もしたし先輩神官たちに協力をお願いしたしパシられたし貢いだし!!
「ただそれらに対し、望めば上り詰めることができる……そう捉えていただいて結構です」
「……そうか」
「何故獣化を繰り返すと、私たちは正気を失うのか。それは魂が削れていくからだと聖女たちは伝え聞いております」
「……」
「そしてそれは誰彼構わず使うわけにはいかず、扱うに相応しい人間を選定する必要がありました」
「何故だ」
静かに問うアドルフさんの目が、怒りを滲ませているのを見て私は悲しくなった。
別に叱られて怖いとか、アドルフさんに睨まれて悲しくなったわけじゃないよ!?
むしろ推しのいろんな表情を見れて私は幸せです。
……というのはともかくとして。
彼は、これまで部下たちを……国から使い捨てられる獣化で暴走まで至った人たちを、幾人も見て来た。
聖女たちにそれを救う力があるなら、何故もっと早くから行動しないのか、何故その力を広めて救わないのかと言いたいのだろう。
言葉が足りないだけで、優しい人。
ああーーーー推せる。
「魂を癒す術は、扱いを間違えると術者が死ぬのです。術者が死ねば回復できたはずの人に影響が及びましょう。だからこそ、選定が必要なのです」
正しく使え、正しく篩え。
聖女はそれを求められる。
救うべき兵士が百人いても、全てを癒すことは追いつかない。
だけれど、後ろに控える万の民のために、その百人の中から民の盾となる戦士を選び、百に足る兵士として前線に戻せと……教わるのだ。
要するに、弱い兵士を見捨てて強い兵士の中から獣化させて繰り返し戦わせた方が効率がいいってだけの話だ。
酷い言い様だけど、合理的なんだろう。
聖女が魂を回復するには、聖女にだってリスクがある以上限界点に達する前に効率的に癒していかなければならないのだ。
「不満も、悲しみもあるでしょう。だからこそ、それを分かち合うべく獣化して戦う獣神部隊の兵士と聖女は結婚させられるのです」
獣化して戦う戦士と、それを癒す聖女と。
両方が、互いを支え合いながら互いを枷として国に繋がれる。
せめてもの慰めとして、聖女には相手を選ぶ権利が与えられるのだ。
(酷い話)
互いを守る盾となるために、そうせざるを得ないから。
そこに愛など生まれないことの方が殆どで、だからこそ一年という期間を設けているのだ。
「第五部隊を選んだのは、私の意思。アドルフさんを夫にと願ったのは、私の本心です」
彼に愛はないなんて、百も承知だ。
愛さないと宣言されたって、傷つかない。……嘘、少し辛い。
でも、私は心の底からアドルフさんを推しているのだ。
そして第五部隊のことも箱推ししているので、聖女として尽くすこのチャンス、逃してなるものかって話だったんですよ!




