第68話
「……それは事実です」
ちらりとアドルフさんを見てから、私は頷いてみせる。
これを否定しても意味はないと思ったからだ。
基本的に、亡命者が出ている段階で我が国も〝やばい〟とは思ったんだろうし、教会側も一生懸命神官たちを守るために今の聖女を獣神部隊と婚姻させるっていう決まりを作ったわけだし。
そこはもう隠しようもないっていうかね。
戦争だから非倫理的な行動があちこちで起こっていたことは事実だし、そこは目を覆いたくなるような惨劇が繰り広げられていたことも。
軍内部でもストレスやいろんないざこざから、秩序が乱れていたことも。
それらは、事実だ。
隠していくという道もあるだろうが、ゲオルグ陛下はそれをよしとしていない。
そしてそれは私たち聖女だけでなく、アドルフさんたち獣神部隊の隊長にも告げられている。
(ただそこの中で、返答に対する取捨選択の権利があるってだけの話よね)
スリコフ将軍に全てをあけすけに話すつもりはないよ!
これがアドルフさんだったら別だけども。
はーん、敵側に転生しなくて良かった。
いやでも敵側の尋問官的な立場でアドルフさんを前にするってのもシチュエーション的には萌えるな!
でも推しは推してこそ。
敵側だったら私寝返っちゃうわ、アドルフさんがいるところこそ私の居場所だからね!!
「そこについて詳しく話すことは?」
「簡易的に話すとするならば、聖女という高位の神官をつなぎ止めておきたい軍と聖女たちを拉致されないようにするための合意だったとだけ」
「……聖女たちが病んだ理由は?」
「拉致された先で女性兵士や神官たちがどのように扱われるか伝聞がございますので」
にっこりと微笑んでそっちに連れて行かれてされていることと同じだ、と言外に告げる。
まあ実際問題、どっちの国でも戦時下で酷い目に遭わされた女性がいたことは事実だ。
女性だけでなく、男性もだけど。
ただまあ、戦時下で命の危機を感じたとき、ストレスの捌け口に下っ端に対して暴行をするのに良心が痛まないやつがどこにでもいたっていう荒んだ事実は、両国共に認めたくない話ではあるんだけども。
「聖女は望まぬ男と婚姻させられ、女性神官たちもそのようにさせられる。性的に搾取される側であり、夫以外にも関係を強要される……というのは?」
「それはまるっきり嘘ですねえ……」
思わず眉間にしわを寄せてから、私は慌てて取り繕った笑みを浮かべる。
そのーなんだ、そういう性癖の人がいたかどうかまではわかんないですけどね?
基本的には私たちの国は一夫一妻制度ですし、浮気はやはりよろしくないですし!?
(戦時下で無理矢理婚姻させられたからって、お互い浮気していたって話は聞いたことあるけども)
おそらくはかつての聖女が獣化する人々に対する〝魂の治癒〟ができることと、性的関係を持つことで聖女の魂を癒やすという永久機関を保つために大勢と関係を持たされた……っていう事例について触れているんだと思う。
ただこの言い方だとおそらくスリコフ将軍は〝魂の治癒〟について知らないっぽいんだよなあ。
まだ隠し球として私たちに何かを言っていないだけの可能性もあるけれど。
「ふむ……」
私の答えに、スリコフ将軍は口元に手を当てて何かを考えているようだった。
少しの間、気まずい沈黙が流れる。
「……知っているかもしれないが、俺の母親はかつてそちらの国で聖女だったと言っている。亡命した際にはすでに俺を身ごもっており、父親以外の兵士たちに乱暴された結果だと」
ほほう?
いやしかしおかしいな。
スリコフ将軍は見た感じからして二十代半ばくらい。
もう少し前後した年齢で考えても、そのくらいに行方不明になった聖女なんていなかったはずだ。
聖女は数が少ないからね!
ちゃんと把握してるよ!!
「そして母がそのように述べるのと同じように、聖女は単に兵士たちの捌け口として扱うための方便だったとして、彼女たちを保護した家々から賠償を求める声が上がっている」
「うわあ」
うわあ。
思わず声を上げてしまったが私は悪くないと思う。
勝手なこと言ってんなあ! もう!!




