第6話
「あの、コーヒーはブラックで良かったですか?」
「……ああ」
コーヒーの香りにふっと目元を和らげて笑うの、本当に推せる。可愛い。
ブラックコーヒーがお好きなんですね! 記憶しました。
これからは毎朝私がアドルフさんのためにコーヒーを豆から! 準備しますよ!!
ってこの世界、豆を挽かなきゃコーヒー飲めないんだけども。
ただコツがあるのでね、そこは聖女の付き合いで味にうるさい貴族出身の方に教えていただいたので自信があるよ……!!
「どうぞ」
「ありがとう」
やーん、律儀にコーヒーのお礼言う推し、もう推せるでしょ。
愛のない結婚を強いられた上に話し合いなんて面倒くさいことをしなきゃいけないのに、わざわざお礼まで言ってくれるんだよ!?
はー、アドルフさんったら大人……大人の魅力……しゅき。
「……単刀直入に聞こう。聖女は何故、我々と共にある?」
「軍部では説明されていないのですか?」
「……第一部隊はされているだろうが、第五部隊にはされていない」
「ええ!?」
そいつぁ初耳だな!!
いくら切り捨てていい平民だけの部隊だからってその扱いはないわー。
まあ聖女たちも選ばないとお偉方は思っているんだろうし、実際その通りだけどさ……。
なんせ聖女にとっても、獣神部隊に所属しなければならない上で選択が自分の命運を分けるものなのだ。
もちろん、部隊によって行かされる戦場の危険度ってものがね……?
「ええと、では……聖女が何故獣神部隊の隊員と婚姻を義務づけられているかについてお話ししたいなと思うんですが……おそらくそれが問題点かと」
「……わかった」
私たちは、この国の住民は――かつて〝獣人〟と呼ばれた民の末裔だ。
今でこそただの人となんら変わらない姿だけれど、歴史を紐解けばケモナーが泣いて喜ぶ獣人姿だったことがわかる。
何故、人の姿に近くなったのか……その原因は解明されていない。
しかし確実にその遺伝子は継いでいる。
国民は、生まれながらに獣化ができるのだ。
獣化するとその能力値は三倍、人によっては五倍以上となる。
代わりにその状態はもって数十分であり、そして人生における回数が定められているという。
正確な数はわからない。個体差とだけ。
で、一定回数を越えると、暴走して死を迎えるか、あるいはそのまま死ぬかである。
「というのがまあ、一般的な獣化の話ですよね」
「……そうだな」
食卓を挟んで、アドルフさんが真向かいにいる。
真面目に私の話を、それも真剣に聞いて頷いてくれるその姿に私の脳内シャッターは大忙しだ。
「回復能力を持つ人間は、獣化ができません」
「それも、知っている」
「聖女になるには、複雑な手順。自身の限界。神への献身、その他諸々規約をいかに学ぶかが重視されます」
「……規約?」
「はい」
そう、聖女になるには試験を受ければいいのだ。
獣化して超人的な能力を得る代わりに、正気と生命が失われていく。
ただそれを担保に戦争では負け知らず。それがこの国だ。
消耗する戦いではあるけれど、十対十が十対一で済むならば……っていういやな考え方だ。
そんな中、いつしか獣化できない人間が生まれた。
そして獣化できない人間は何故か誰かを癒す力を持って生まれたのである。
獣化して国を護る兵士だって、正気を失って同胞に殺されるか心臓発作で死ぬかなんて道は選びたくない。
どうせだったら人のまま生きて、死にたいと思うのは普通のことだ。
獣神部隊は、それを厭わない者で構成されている。
彼らがそうまでして身を挺する理由は愛国心ではない。お給料の問題だ。
――少なくとも、第五部隊は。
まあそれはともかくとして、戦争が長引けば当然獣化して戦うにしても、兵士は減っていく。
下手をすれば正気を失った超人的な能力を発揮するまさしく獣によって同胞がやられてしまう可能性もあった中で、回復能力を持つ人間がいることは国にとって朗報だった。
回復能力を持つ人間は教会預かりとされ、兵士を癒す役目を持たされた。
戦うならば獣化せずともいいと上からお達しを受けた兵士たちを、日々癒す役目を彼らは言い渡されたのだ。
そこに拒否権なんてものはない。
でも、戦争中だし国民同士の助け合いなんだから仕方がないってことでみんな文句を言わない。言えないだけだけど。
そこまでは、誰もが知っている話。
「規約には、表立って言ってはならぬ内容があるのです。そして、特別な術の使い方も」
「……特別な、術」
「そうです」
規約には、結婚した相手と信頼関係を築けた場合のみ秘密を明かすことを許すとされていた。
それは国が利用するためであり、そして聖女が自分たちよりも後の聖女を守るための一文だということを、私は聖女になるための試験を受けて知っている。
だからこそ、私はアドルフさんに話すのだ。
「聖女は、獣化で疲弊した魂を癒す術を扱える存在なのです」




