第49話
さて、私たちは名実共に夫婦になったわけだが……アドルフさんが焦った(?)のには理由があった。
なんと、私とアドルフさんが白い結婚であることはあの私が倒れた日にバレてしまったわけだが。
それで何故かゲオルグ王子……じゃなかった、国王陛下が、結婚一年で離縁するなら私を後宮に迎えてもいいと言いだしたらしいのだ。
なんじゃそれって目を丸くしてしまったよクルッポー。
「え? それってアニータ様の侍女としてってことですかね」
「いや、側室として迎えると」
「は? あの顔を合わせれば嫌味の連発で人のことを最弱の聖女と罵りなんだったらチビだとかガリだとか言いたい放題だったあの人がですか?」
「ああ」
なんでも、一応あの人は口が悪いけど根は悪くない王族だったために私に対して罪悪感が半端なかったらしい。
まあこの計画で最弱だからこそ要になった私のことを、ずっと『最弱』と呼び続けることで勘違いするな、常に慎重でいろと大変わかりづらい心配をし続けてくれていたような人でもあるので……。
彼は私がアドルフさんのことを心底好きだってことに(当時はまだ推しだからって理由だったけど)気づいていたからこそ、離縁されて傷心な私を後宮に迎え入れて少なくとも生活面では不自由ないように、名誉も与えられるし……とか考えたのだろう。
(まあ、救国の聖女を側室に迎えて、最高の聖女を王妃に掲げたら確かに良いパフォーマンスにもなるしね)
その辺の打算もあると私は睨んでいる。うん。
で、アドルフさんはそれを私が眠っている間に言われていたらしく、それがいやならさっさと関係をなんとかしろと迫られたんだとか。
「……陛下はやると言ったらやるからな」
げっそりとした顔でそう言うアドルフさんの様子を見るに、当時はいろいろあったのかもしれない。
「だがお前が目を覚ましたからといってすぐに関係をどうこうしようとは思わなかった。イリステラの体調と、気持ちが大事だったからな。……お前はずっと俺を大切にしてくれていたが、どこかで一線を置いていただろう? 俺が言うのもなんだが」
「あ、あー……それは」
前世のゲームで推しだったからとは言えない。さすがに言えない。
私としてはまあ目を泳がせるしかないけどアドルフさんは追求してくるつもりはないようだ。
「まあ、それでも一緒に暮らしていくうちにそれなりに関係を築けていたと思ったし、イリステラが俺を拒まないでくれるなら……と思うようになっていた。あの鉱山への任務が終われば、戦争も終わりが見えると陛下から言われていたからそうしたら……と思っていた」
「えっ」
あの人そんなことアドルフさんに言ってたんだ!?
それは私知らない事実ですね! とっちめてやりてえ!!
つまりアドルフさんも結構前から私のこと『いいな』って思ってくれていたわけだ。
戦争もあって獣化して最前線で戦う立場としてはやっぱり終わりが見えているなら、落ち着いてから……という気持ちが強かったんだと思う。
「俺はこの通り傷だらけで無愛想だ。女子供に怖がられることも多々ある。だから恩と感謝で俺を選んでくれたイリステラがその気持ちのままなら……と考えて手が出せなかった」
「アドルフさん……!!」
そんな、いつでもウェルカムでしたよ!
むしろ私がまな板の傷物(語弊)でごめんなさいって気持ちでどうしたらアドルフさんに女として見てもらえるのか悶々としていたというのに!!
「まあこれで文句も言われないだろう。自分が発破をかけたおかげだという顔をされるかと思うと腹が立つが」
「あ、それはわかります」
ゲオルグ様ってなんか腹立つんだよね……いい人なんだけど。
アニータ様は苦労するだろうなあ!
「さて、それじゃあ休憩もできたな?」
「は?」
「悪いな、狼系の獣人はたった一人の相手を溺愛する性質らしくてな?」
私の肩に残る傷跡をなぞりながら、アドルフさんが笑った。
その笑みが捕食者のそれで、私は顔が引きつるのを感じる。
「じゅ、獣人の性質って現代ではあまり獣化以外残っていないって研究結果が」
「獣化を繰り返したやつはその本質が先祖返りになっていくという研究結果も出ている」
「ぐっ……そ、それご存じでしたか!」
「ああ、獣神部隊はみんな知ってる」
獣の本質がどう自分たちに影響するか知っておくべきだからなとしれっと言うアドルフさん、研究結果とかを読んでるとか知的ィ。
やばい、そんなところも推せる。
「ち、ちなみにオオカミってどんななんです?」
「うん?」
私が見上げた先で、アドルフさんがその綺麗な緑の目を細めて笑う。
そして私の耳元で囁いた。
「……一生かけて教えてやるから安心しろ」




