第4話
「まずはお互い、婚姻生活を円満に過ごすためにも相互理解が必要だと思うんですよね!」
私が朗らかにそう言えば、アドルフさんがあからさまにいやそうな顔をした。
ええー、そんな顔されたら傷ついちゃう。
でも眉間に皺を寄せた姿も素敵!
「まあまあ、そう嫌そうな顔をなさらず。……とりあえず、部屋は別にいたしましょう。新婚生活の一週間はおそらく監視がついているでしょうから、当面は仲睦まじく過ごすのが良いかと思います。……ふりだけでも」
「……」
「それじゃあ改めて自己紹介をさせていただきます。私の名前はイリステラ。イリステラ・ミュラーとなりましたが旧姓はカルデラです。孤児院の名前から姓をつけられました」
「……孤児院」
私の言葉にぴくりと反応を返すアドルフさんのその感情は、一体何だろうか。
憐憫だろうか、それとも同じ孤児院出身ということで少し警戒心を解いてくれたのだろうか。
いずれにせよ、まだ彼の私を見る目には、なんの温度も浮かんではいない。
「私が第五部隊を選んだ理由と、アドルフさんを伴侶にと望んだ理由は先ほども申し上げたように下級神官であったことに理由があります。かつて、あなた方の活躍により救われた戦場に、私もいたからです」
「……それは、他の部隊でも同じだろう」
「まあ、そうなんですけどね」
いいや、一応同調はしたけど決して他の獣神部隊は活躍していなかった。
窮地を救ってくれたのは、かつて泥まみれで死んでしまうかと思ったあの時敵をなぎ払ったのは、私の脳裏に焼き付いて離れないあの戦場を駆け抜けたオオカミの姿は。
「それでも私は、私の癒やしの力を獣神部隊に使うことを義務づけられるならば、あなた方に捧げたい」
「……」
「……他にも色々お話ししたいことがありますが、一旦お互いに荷物を片付けましょうか。二階の部屋の一つをいただきますね」
「ああ……」
そうだ、推しと打ち解けたいし幸せにしたいけど、今のところ私の事情で一方的に関係を押し付けちゃってるからね!!
打ち解けるためには対話が必要だと思うけど、それでもいきなりほぼ初対面で結婚しなきゃいけなくて新居に放り込まれた状態なのに立ち話だなんて私ったら気が利かない!!
こんなんでは新妻としてさっそく愛想を尽かされてしまうではないか。
(頑張るのよイリステラ。まだ結婚初日、焦ってはならない!!)
まずは自分の方が荷物も少ないのだ。
とっとと荷物を部屋に放り込んだらコーヒーを二人分淹れて、ゆっくりお話しできる雰囲気作りから始めるべきだろう。
なけなしの女子力アピールから始めよう。
とりあえず何か行動を起こさなきゃ始まらないのだから!!