第37話
戻った私を見てアドルフさんは眉を顰めたけれど、特に何かを突っ込んでくることはなかった。
あまり表面上変化は見えないようにしているつもりだったけど、脂汗でも滲んでいたかなと思って今度は冷や汗が出るかと思った。
(え? 大丈夫だよね? 体臭)
推しに臭いとか思われたら埋まりたくなってしまいます。
割とかなりの本気度で。
やっぱねえ、推しには認知されているなら不快な思いをさせたくないんですよ。ええ。
「それじゃあさっさと下山してみんなと合流しましょう。きっと心配してますからね!」
なんせ特別な山ということで聖女である私と、その伴侶のアドルフさんが選ばれるのは仕方がない……と理解していても、第五部隊の面々は心配だったようで。
早く帰って、彼らのことも安心させてあげたい。
勿論、私も採掘はさっさとやったつもりだしアドルフさんの記憶能力のおかげで坑道内部からここまで迷うことなんて一切無かった。
余計な時間はかかっていないから、首が長くなるほど待たせた、とは思わないけどね。
それでも心配はしちゃうよね!
わかるわかる!!
(まあ、私も個人的に早くテントに戻りたい)
外に出て結界を張り直す際に手を見られないようにだけ必死だったし、なんだったらまあ今も気が遠のきそうにズキズキと手が痛むので、できれば早く下山して痛み止めの薬をこっそり飲みたい!!
(……聖女長様には、私とアドルフさんが清い仲だってバレてたっぽいから持たされたのかな)
それとも、私がゲオルグ王子いわく〝最弱の聖女〟だから、余力があっても回復が追いつかずに痛みを覚えると思ってのことだったのか。
いずれにせよ、私に痛み止めを持たせたのは、きっと聖女長様の優しさに違いは無いだろう。
鉱石のサイズそのものは問題じゃないって話だったから、私がとった小さなものでも十分事足りる……と信じたい。
今はアドルフさんに心配をかけないためにも精一杯だけど。
帰り道だから着替えもせず、聖女の服装のまま下山する私を彼がどんな目で見ているかまで気を遣うことはできない。
まあ、違和感はあるだろう。
でも私が何も言わないから、アドルフさんも聞かないでくれる。
今はその気遣いが、とても嬉しい。
「……?」
だけど、下山していく中で妙な雰囲気を察して私たちは足を止めた。
戦闘時特有の、ピリッとした空気だったからだ。
だがおかしい。
私たちは自分たちの国側の、駐屯地から登ってきた。
反対側から攻め入られた気配はない。
もしそうだったら、敵兵の姿がこの山中のあちこちにあってもいいからだ。
じゃあ、何がおかしい?
(まさか)
アドルフさんが私の肩を叩いた。
はっとしてそちらを見ると、アドルフさんは私の頭を撫でて先を行った。
「おそらく、駐在兵の中に裏切り者がいたんだろう。狙いがわからない以上、気を抜くな」
「は、はい!」
そうだ、やはりそうなる。
今回の件で、敵方に聖女を連れて行くのが目的なのか。
それとも神鳥への捧げ物である鉱石を奪取して、現政権にとって変わろうとする勢力か。
あるいは、ゲオルグ王子のしようとしていることに気がついて阻止しに来たのか……。
いずれにせよ、可能性があるとか!
(んもおおおお、ゲオルグ王子、しっかりしてよねえ!)
そういうの、ちゃんとするのが役割分担上のそっちの仕事なんだからさあ!!




