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転生者の私は〝推し活〟するため聖女になりました!  作者: 玉響なつめ
第四章 高難易度ミッションをクリアせよ!

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第36話

 神殿と言っても見た目は確かに立派なものではあるけど、中は至ってシンプルだ。

 直線上に長い廊下、左右にはこの国の女神を称えるレリーフが壁面に施されている。

 完成当時は着色もしてあったのだろうけれど、今は所々微かに色がわかる程度だ。


 こんな時でもなければ、じっくり見学したいくらい綺麗なんだけどさ。

 そもそも一般人が入れない場所なんだけど。


 ふと振り返ると、大分歩いていたからかアドルフさんの後ろ姿が見えた。


(頑張ろう)


 正直こういう細かい部分はゲームじゃわからない話だ。

 神殿の中は当たり前だが静まり返っていて、自分の足音しか聞こえない。

 しかも暗いから、手元にランタンを持って入らないといけない。


 一応明かりを灯す魔法とか、そういうものもあるんだけど……大した消費量じゃないとわかっていても、使うのを惜しんでしまうくらい私はこの採掘に緊張していた。


 低スペックである自分を、理解しているからだ。

 この採掘は必要なことで、本来なら全部の魔力を使っても心を通わせた伴侶と体を重ねれば聖女はなんとか生き延びられる、それが計画の根底にある。


 でも私は元々この計画がゲオルグ王子から出た時も、アドルフさんとそういう(・・・・)関係になることは考えていなかった。

 だって推しを幸せにするってことで結婚したけど、彼が望むならともかく私はとにかくアドルフさんを幸せにしたいだけで、彼が笑ってくれればそれで良くて。


 自分の寿命を削ってでも、なんとかなし得てやろうとかそんな感じで考えていたのだ。


(足りるかな)


 だけど、実際にこの場に来て不安が頭を過るのだ。

 聖女長様は言っていた。

 自分の魔力が空っぽになっても、頼りになる伴侶がいればきっとなんとかなるって。

 神様は見捨てないだろうって。


 でも、そうだろうか?

 ギリギリのところで神に祈る人々の全てが救われたわけじゃない。

 勿論、精神的に救われたことはたくさんあると思う


 だけど、私の中ではそれだけ(・・・・)だった。

 腕の中で死んでいった兵士の姿も、到着した町で事切れていた一般人も、彼らだって神に縋ったはずなのだ。

 聖女だからと私が優遇されるわけじゃないってことを、私はこの目で見てきたのだ。


(息が苦しい)


 自分の能力が足りなくて採掘に失敗したらどうしよう?

 採掘に成功しても、判断を誤って自分の魔力がなくなって運べなくなったら?

 もし何もできずに自分が死んでしまったら?


(……死ぬのは、やだなあ)


 正直戦場で何回も死ぬような想いはしてきたし、そんな時は逆に苦しくていっそ楽になれるのかなとネガティブなことをたくさん考えた。

 でも、今はそれよりも怖いことがあった。


(私が死んだら、アドルフさんはまた誰かを看取ったことになるんだよなあ)


 きっとそれは彼の心の傷になってしまうのだろう。

 それを嬉しいと思ってしまう自分と、そんな傷を増やしたくないからこそ頑張らなくちゃと思う自分がいる。


(だめだだめだ、弱気になるな!)


 解毒の魔法も、回復の魔法も、基礎の基礎から聖女長様のところで鍛え直した。

 ゲオルグ王子から鉱石の採掘方法も教えてもらって、似たような石で練習もした。

 やれることはやってきたのだ。

 後は気合いと根性である。


 私には、それしかないのだ。

 というか、それで乗り切ってきたんだから今回だって乗り切ってやるんですよ。


 最奥の泉の周りは特に囲われているわけでもなく、むき出しの石や土。

 そこにキラキラ光る鉱石が微かに見えるけど、息をするだけで苦しい。

 どうやらそのむき出し空間に入る手前で昔の聖女たちが何かしらの魔法を施してくれているらしかった。


 結界と違って誰でも入れるようになっていたのは、おそらく鉱夫たちに採掘を任せていたからだろう。

 毒素は外に出ない代わりに、そこで直接作業する人間だけが毒素に冒されるって寸法か。なんて酷い。


 そこに打ち捨てられるように置かれていた、小ぶりなツルハシを手に取る。

 数回、鉱石のある付近の壁面に向かって振り下ろせば案外簡単に鉱石そのものは手に入った。


(後は、これを)


 ごくりと息を呑む。

 手に持っただけで、じくじくと痛みを感じるその鉱石。


 鮮やかな青のようで有りながら、赤みを内包するその石は宝石としてもきっと価値がある。

 毒さえなければね。


 そしてこの石は、空気に長く触れ続けると崩れてしまうのだという。

 この石をコーティングする役割を持つのが、この泉だ。

 泉にはこの鉱石の毒素が溶け込んでおり、美しく澄んでいるように見えてただの劇薬なのだ。


 器を使って浸すのでは器が損なわれるほどの劇薬なのだ。

 器を頼って鉱石が泉の底に沈んだら、手が届かない。


 ちゃぷ、という音と共に焼けるような痛みが手に広がった。

 じくじくと痛むそれは、針の手袋でも嵌められたのかって感じで痛い。

 感覚は失われるどころか、熱を持って腫れた箇所を更に苛まれているっていう感じに近い。


(痛い)


 頭の中はそれでいっぱいだ。

 漬けた瞬間に石を放り出して手を頭上髙くに挙げたかった。

 だが許されない。


 私は必死に回復と解毒の魔法を自分の手にかけ続けた。


 泉に浸すことによって鉱石はさらに形を変える。

 とげとげしい、まさしく『鉱石』って感じだった石が泉の毒で溶け、更に丸みを帯びていくのだ。


 歪ながらもできあがったそれを地面に置く。

 ギリギリ、魔力を残せたと思う。

 泉の水を捨て布で拭い去るだけでも痛んだ。私の両手は、色が変わっていた。

 

(袖の長い聖女服を持ってきて良かった)

 

 アドルフさんには見せられない。


 文献によるとこうして泉の水での固定をすることによって、一ヶ月ほどはこの石の毒素は漏れ出なくなるらしい。

 どこまで正しいかは不明だけれど、私は石を服の内ポケットに入れてなんとかミッションをこなせたことにほっと胸をなで下ろし、神殿側に戻る。

 空気が美味しい!


(後はこれを王子に届ければ……)


 きっと私の寿命は相当削れたことだろうけど、それでもいい。

 私は生還できたし、これでアドルフさんが戦わなくてもいい未来が掴めるのだ。


 あと半年足らず、彼の妻として幸せを模索していこう。

 できれば、満面の笑みのアドルフさんを見てみたい。


 私はそう思いながら、手の痛みで顔を歪めないよう気合いを入れ直すのだった。

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