第32話
さて、それはともかくとしてアドルフさんが過保護な件をどうしたらいいだろうか。
正直なところ構っていただけるのはファンサが過ぎると言いつつも嬉しくてたまらないわけですよ。
なんですか『寒くないか』とか『喉は渇いてないか』『……戦場を知っているとはいえ、恐ろしかったらいつでも言え』とか。
スパダリとファンサが過ぎる……!!
供給過多で死んでしまいそうです。やだ尊い。
なんかねえ、私の傷痕を見て過保護になったのに輪をかけるようにして、エミリアさんに会って過去の話を聞いたあのくらいからこんな感じでずっと傍にいてくれるんですよ。
嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、どうした?
これまでそんなことなかったよね?
距離感が急にバグってるんですけどこれはどうしたらいいの運営!!
……というパニック具合ですよ。
で、当然ながら戦場で陣を敷いているので、我々はテントでの野営生活なワケです。
前線じゃないからそこら辺の原っぱに塹壕作ってそこで寝ろとかそういう無茶ぶりはされない。
いや下級神官時代はそうだったってだけで、聖女って立場になってからはそういうの無縁なんだけど。
でね、話を戻すと野営地で部隊のテントが展開される。
交代で見張りをしたりするし、食料品とかその他を置いておく場所も必要だし、わかる。
だけどさ、だけどね?
ここは戦場なんですよ。ええ、一応。
今回のこれが偽情報で第五部隊をここに送ったんだとしても、本当に攻められる可能性がないとは言い切れない戦場なのにですよ。
(……夫婦だからって同じテントにする!?)
私は当初、第五部隊の女性隊員たち……つまり、カレンとマヌエラのことだ、彼女たちと同じテントだと思ってたんですよ!
それなのに蓋を開けてみたら『あ、じゃあ第五部隊の隊長と聖女は夫婦なんだし同じテントでいいね』じゃないんですよ……!!
驚いて二の句が継げない私をよそに、アドルフさんも『それでいい』とか言うし。
「……アドルフさん、あの、私やっぱりカレンたちと同じテントで……」
「別に支障は無いだろう」
(ある! ありまくりだからア!!)
これまでは同じ屋根の下に暮らしていたとはいえ、部屋は別々だったのだ。
アドルフさんが治療中にうたた寝しちゃった姿を見たことはあったし、お風呂上がりの姿だって見たことがある。
けど、言ってしまえばそれだけだ。
いいか?
同じテントを使うってことはね、隣り合わせで寝ることになるってことなんですよ。
隊長格のアドルフさんは見回りや不寝番をする必要も無く、また聖女という治癒係である私もそれと同様。
つまり、タイミングがずれるってことがないのだ。
着替えとか寝顔見られたりとかそういう危険性があるんだよ!
戦場で守ってくれる頼りがいある人と一緒で何の危険性がって、私の乙女心の問題だよ!!
ふぇぇ、私の心の中で幼女が泣いているよ……。
「……確かに夫とはいえ、俺たちの関係は……あー、その。普通ではないと思う」
私の反応に対してアドルフさんは少し目を泳がせてから、大きくため息を吐いた。
別に怒っているとかそういうものではないとわかっているので必要以上にびくついたりとかはないけれど、私もため息を吐きたい気分である。
「だが同じテントにしたのは、他の連中に話を聞かれにくくするためでもあるし……聖女を伴った行軍は、第五部隊も初めてだ。イリステラを守るためだと考えてくれ」
「……それは、はい……」
聖女を守る。
その言葉はとっても重要なのでこちらとしても文句は言えないんだよなあ!!
確かに前線ではないにしろ、ここは戦闘区域に間違いないのだ。
たとえ進軍していなかったとしても敵兵がどこかに潜んでいて、戦闘能力の低い神官や聖女を攫おうとしてもおかしくはない。
だから神官たちは一カ所に集められ、護衛しやすいようにテントは一番戦線から遠目の位置になっているわけだし。
まあ前線に配置された下級神官にはそんなもんお構いなしですけどね!
塹壕の中でカタカタ震えながら一晩明かしたのは忘れないよ!!
(これは……覚悟を決めるしかないのか……)
推しがこんなにも気を配ってくれているのを、どうして断れようか。
たとえそれが供給過多で私が尊死しそうになったとしても、だ。
私はアドルフさんの言葉に、ただ頷くしかできなかったのである。




