第31話
行軍そのものは、特に問題も無く……って当然といえば当然というか、敵影っていうの自体はほぼほぼ仮想敵っていうかね。
ゲオルグ王子が仕組んだことですから!
ただ行軍における食料品とかが税金で賄われていると思うと、私の良心っていうか小市民的な部分が……こうね。
(……『嘘を吐いている』って思うとしんどいんだよなあ)
本音を言えば敵の気配があるから聖女だけ送り込んで確認させる、とかそういう作戦にしてくれたらよかったのに! と思わずにはいられない。
ただ、ここで私とゲオルグ王子で意思疎通が取れていないのが問題だったんだと思う。
ゲオルグ王子は聖女を『使い捨ての道具』と言って憚らないが、それは王家がこれまでの聖女たちをそう扱ってきたという自虐でもある。
彼はアニータ様を愛していて、本来であれば自分たちが山に行って儀式を行うべきであると考えているけれど……同時にアニータ様に負担をかけたくないとそう思っている。
彼らは王族として、婚儀をするまで肉体関係はできない。
そういう意味では不適格なのだ。
(儀式は聖女にとって、命がけ)
だからこそ、儀式が終わった後に生命力を補充するための『夫』が近くにいてくれた方がいいだろう。
体を重ねるにも周囲が守られていた方がいいに決まっている。
そうゲオルグ王子は考えているのである。
そりゃね、そうですよね!
私があれだけ『アドルフさん好き!!』って態度で押して押して押しまくって悩むことなんてこれっぽっちもなく聖女の儀で指名しましたしね!!
(……まさか清い仲で『愛せない』と言われているなんてゲオルグ王子は思ってないんだよなあ)
ぶっちゃけると、清い仲のまま結婚した聖女が離婚することってのはままある話だ。
だが同時に、見える、もしくは感じる人からすれば目の前に怪我人がいて、自分がそれを癒せるとわかっていて放置ができるか?って話。
割とできない。
聖女になる……というか、回復能力を備え持った女性たちは情に厚い人間が多いと思う。
でなければ戦場の、前線に放り込まれても尚兵士たちを癒し続けるなんてできないのだ。
おそらく、回復能力を持って生まれた人間にはそうなるよう仕組まれているんじゃなかろうか。
これを神鳥の加護と見るべきか、呪いと見るべきか。
まあ受け取り方は、人ぞれぞれだ。
「まもなく鉱山のすそ野、野営地に到着です」
「わかった」
例の鉱石が採れる山はゴロゴロとした岩で出来ていて、すそ野に行くにつれ緑が生えている。
川が近くに流れ、現在はこの山がある意味敵国との壁の役割も果たしてくれているのだ。
ほんの数十年前までは、この山の向こうがわの平地もうちの国の領土だったらしいんだけどね。
戦で取られてそれっきりなのだ。
だからこそ、この山を奪われては神鳥の願いが叶わないかもしれないなんて話に繋がるのだけれど。
「大丈夫か、イリステラ。今のところ戦闘に発展する気配はないが、第五部隊としてお前が出陣するのはこれが初めてだが、気を引き締めて……」
アドルフさんが私を気遣ってくれるその言葉が嬉しい。
だけど、彼はすぐに注意事項を口にしようとして、止めた。
「……そうだな、戦場に初めて出るわけじゃないお前にはいちいち言う必要も無かった。すまない」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。……まずは現地の部隊との情報交換からですよね」
「ああ」
「怪我人がどの程度かわかりませんが、現地の下級神官と協力して治療にあたっても?」
「ああ、頼む。……動ける兵が増えるのは、正直ありがたいことだからな」
こっからだ。
こっからが正念場なのだ。
(アドルフさんの体と魂は治した。……私の力が足りなくて、傷痕は消せないけど。でも、心に余裕ができてアドルフさんはよく笑ってくれるようになった)
それは、本当に細やかな微笑みみたいなレベルだけど。
それでも全てを諦めて虚ろに周りを見て、自分を犠牲にするだけの日々ではなくなっている……と思う。
後は、この戦争を止めて彼が自由になれるように。
そのために、私はあの山の鉱石を手に入れてみせる。
絶対に。
絶対にだ!




