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転生者の私は〝推し活〟するため聖女になりました!  作者: 玉響なつめ
第三章 引力には逆らえない

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第25話

 私がゆっくりと階段を下りる姿を見るアドルフさんの表情は、とても難しいものだった。

 この場に私が現れたことは、彼にとって嬉しくない話に違いない。


 だから、本当なら我慢しておくべきことだったと思う。

 でも、これだけは譲れないのだ。


(私の! 推しを!! 馬鹿にされて黙ってられるかっつーの!!)


 アドルフさんと結婚したい相手がいない?

 いないわけないじゃん、私を筆頭にたくさんいるわボケぇ!


 そう叫びたいのを堪えて表面上どこまでも穏やかな聖女スマイルを浮かべる私だけど、きっと目は笑ってない。

 後ろの方でカレンたちの『いいぞやっちゃえー』なんて声援にも背中を押されるようにして、私はゆっくりとした足取りのままアドルフさんの隣に立ち、エミリアさんを見据えた。


「初めまして。アドルフ・ミュラーの妻、イリステラと申します」


 どこまでも優雅に!

 どこまでも穏やかに、笑みを絶やさず!!


 それは聖女教育の一つである。


 兵士にとって怒りを向ける矛先の一つであり、民にとっては救いの象徴だ。

 そんなもんを押し付けられてもこちとら困ってしまうわけだが。

 なんせ、聖女も生身の人間ですので。


 そういう象徴的なものは王城の奥で守られている国王がやるべきだと私は思うんだけどなー!


 まあそれはともかくとして。


「アドルフさん? 紹介してくださらないの?」


「……俺と同じ孤児院出身で、友人の妻の、エミリアだ」


「まあ、それじゃあ幼馴染でいらっしゃるのね?」


「……そうだ」


 苦々しげなアドルフさん。

 ごめんね!


「幼馴染でしたらそれは心配になるのも仕方ありませんね。ですがご安心ください、私は自ら望んでアドルフさんを伴侶にと望みましたし、彼の地位や名誉、ましてやお金が目的ではありません」


「なっ、なっ……なんっで、そんな……」


「これでも聖女の端くれとして、第五部隊もそうですが……騎士様方は常々尊敬しております。神より授かったこの力が、お役に立てることを嬉しく思っております。私はアドルフさんを伴侶にできて、とても幸せな日々を送っておりますのよ?」


「ど、そん、えっ?」


「優しくて頼もしいですし、憧れて遠くに見ていた方に尽くせることがこんなに幸せだとは思ってもみませんでした。ですから、ご心配いただくようなことは何もないんです」


 だから安心してアドルフさんのことは任せてもらいたいな!


 そうだ、私は地位も名誉もお金も必要ない。

 私が求めているのはただ一つ。


 アドルフさんの幸せだ。

 本当に彼が好きになって、彼を大切にしてくれる人に出会って未来を歩んでもらえるよう……私は、それをサポートし続けるって決めてるんだ。


 だから『アドルフなんか』って言葉は許さない。許せない。


 私のその心の底からの言葉に説得力があったのか、聖女という役職が効いたのか。

 エミリアさんは動揺から呆然としていた表情から一転、唇を噛みしめて私を睨み付けて唐突に踵を返し、駆け出して行ってしまった。


「……あら、まあ」


 さすがに何も言わずに背を向けて走り出したのは想定外だったな!?

 嫌味の一つや二つ、なんだったら百個くらい言われる覚悟で立ち向かったのに。


 どうしたもんかと隣のアドルフさんを見上げたら、彼もまた驚いた表情で私を見つめているではないか。


「……アドルフ、さん?」


 てっきりお説教の一つや三つ、彼女の姿が見えなくなったことからあるかと思ったんだけど……アドルフさんの綺麗な緑のおめめがまん丸になって、随分と驚いた表情を浮かべている。

 それが珍しくて、見つめられたままの私も思わず見つめ返してしまった。


(ああ、綺麗な目)


 アドルフさんのこのエメラルドグリーンの目が本当に綺麗で、私は思わず手を伸ばしかけて――次の瞬間、はっとした。


「やったじゃんイリステラー!!」


「すっげえ熱烈な告白! ひゅーひゅー!!」


 経緯を見守っていたらしい第五部隊の隊員たちが一斉に囃し立てたからだ。

 思わず挙げかけていた手を握りしめて、私は動揺を隠しながら抱きついてくるカレンを受け止める。


(私、今、何しようとした?)


 異性として好きで、誰よりも大切で尊敬できる人で、もっとも尊い推し。

 その人に、私は手を伸ばしかけたのだ。


 もっと触れたい、だなんて。


(愛せないって言われてるって自覚しろ)


 どんなに想ったって、それが現実だ。

 目標は変わらない。


 誰よりも、アドルフさんが幸せになれるように。

 アドルフさんの幸せが、私の幸せ。


(……そう、だよね?)


 わあわあ賑やかになった宿舎の中で、私はちらりとまだ隣にいたアドルフさんを盗み見る。

 もう視線は、合わなかった。


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― 新着の感想 ―
イリステラよく言ったー!!カッコいいぞ!!!!
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