第23話
お風呂でドッキリ☆なんてしちゃったせいなのか、少々アドルフさんとは気まずい雰囲気が流れるようになってしまった……。
あれ以来アドルフさんは私と視線を合わせようとしないのに、どこかこう……過保護っていうかね? 気を遣ってくれることが増えていてね?
前から重い荷物は持ってくれるし、食事を作ったらお礼を言ってくれるとかそのあたりは変わらないんだけど……。
なんていうんだろう。
小さい荷物ですら持ってくれたり、基本的にアドルフさんが私の送り迎えをするようになったりって感じで。
いや、推しで好きな人にそんなことされたら余計に惚れてまうわ!!
アドルフさんは単純に私のことを『可哀想な生い立ちの女の子』くらいにしか見ていないんだよなあ、体格差的にも。
あらやだ切ない。
今日も第五部隊で戦況の変化に関する情報が来たので共有をするっていう会議みたいなものを開いた後、一緒に帰る予定だった。
そうしたらなんだかアドルフさんにお客さんだかなんだかでフランツさんが呼びに来て、私の方をチラッと見てアドルフさんが眉間に皺を寄せて……なんだなんだ?
「イリステラ、そこでそのまま待っていろ。すぐ戻る」
「え? あの、お客様が来ているなら別に私は一人でも帰れますし……」
「ダメだ」
「カ、カレンやマヌエラに送ってもらうって方向では」
「ダメだ。待っていろ」
強く言われてしまった。
最近じゃあずっとこんな感じだ。
忙しなく出て行ったアドルフさんを見送って、会議室からはみんなもパラパラと出て行く。
私はどうしようもなくて、一度立ち上がったものの同じ椅子にもう一度座るしかなかった。
「愛されちゃってるじゃーん、イリステラ!」
「……カレン」
「そうですよ。隊長があれだけ気に掛けているっていうのはとても大切にしているってことの表われです!」
「……いやあ、それがさ、二人とも……」
他の隊員がみんないなくなったので、私は二人を手招きして声を潜めてこの間の出来事を話してしまったのだ。
で、色っぽい話なわけでもなく、むしろ傷痕を見られて気を遣われ続けている……ということを正直に話すとカレンは天を仰ぎ、マヌエラは机に突っ伏してしまった。
「ごめんよ、そういうことなのよ……」
「いや、それは隊長が……あの人、いい人なんだけど、あー……もう!!」
「ごめんなさいね、イリステラ……」
二人は私の恋を応援してくれているだけあって、この話にがっくりきてしまったようだ。
大変申し訳ございません。
傷なんて気にしてないよ大丈夫だよと二人からフォローされて励まされてほっこりしていたところで外が騒がしいなと思った私たちは、そうっとドアを開けました。
第五部隊の宿舎は二階に会議室と隊員たちの私室があるので吹き抜けになっている場所まで行くと、下の入り口の広いところで言い争う……というか一方的にアドルフさんに詰め寄る女性の姿があるではないか。
(うん? あれ……)
あの女性、見覚えがある。
知り合いではないし、市場とかでよく顔を合わせる、とかでもない。
そう、あれは【ゲーム】でちょいちょい名前と回想で出てくるアドルフさんの妻ではないか!!
グラフィック的には立ち絵が一種類だけだったけど、しっかりはっきり覚えている。
とても美人に描かれていて、その通りのボンキュッボンの美人が私の眼下にいるのだ。
(……でも、アドルフさんの妻は私だ)
だから、彼女はゲームのストーリーでいうところのアドルフさんの友人で、同じ孤児院出身の男性と結ばれたりとか他の人と……ってふうになると思ってたんだけど、どうにも様子が異なる。
ゲームの中では『アドルフのことは別に好きじゃなかった』『この子もアドルフの子じゃないけど、育てるのにはお金が要る』『いい人だった、でもそれだけ』的な発言を女性主人公に語るのだ。
戦争で貧しく、養われたくてアドルフさんと結婚したが戦場に行きっぱなしの夫と愛を育めるはずもなく浮気、そして夫を亡くしてそのまま遺族としてお金を受け取る……という倫理観ではアウトなんだけど、戦争の厳しさを感じさせるシーンとして描かれる女性。
名前は、そう、エミリアさんだった。
「どうしてっ、アドルフ……あたしはずっとアドルフとッ……」
美人でナイスバディ、両方兼ね備えた女性が悲しげな表情でアドルフさんに縋りついた。
それをアドルフさんは突き放すでもなく受け止めているのを見て、胸が痛む。
(ああ、やっぱり)
ゲームでは、彼女を選んだだけあって、二人の関係は……ぽっと出の私よりも、ずっと親しいものなのは違いない。
私は献身を捧げてきたけれど、それだけだ。
アドルフさんからしてみれば、ただの気のいい同居人。
流れは、変えられないのかもしれない――私は珍しく、弱気にもそう思ってしまったのだった。




